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ハーレム・ドラッグ―8
「ちょ、ちょっと何よこの子・・・! あなたの知り合い!?」

 篠宮が少し青ざめた顔を俺に向けて聞いてきた。

「・・・俺にこんな物騒な知り合いはいねーよ」
「でもあなたの事、知ってるみたいじゃない!」

 そうだ。
 どうやらこの金髪娘は、運命改変薬の事を知ってやがる。
 話からすると、ご先祖様の関連らしい。
 どういう経緯か分からんが、子孫の俺を突き止めて来たってとこか。

「・・・大人しく渡すなら、手荒な事をするつもりはないわ。薬と本はどこ?」



 よく切れそうな剣を突きつけて、手荒な事をするつもりはないとか言われてもな・・・説得じゃなくて脅迫だ。
 と、ボケた事を考えていて返事をしなかったせいか彼女の機嫌を損ねたようだ。

 金髪娘の眼がすぅっと細まり、全身から威圧するような気が放射される。
 ・・・ヤバイ。
 こいつはマジもんの殺気だ。街の喧嘩でいきまいてるそこらの気性の荒い奴とはレベルが違う。
 片手で持った剣がピクリとも動かない。多少心得があるんだろう、剣の切っ先が体の正中心にピタリと合ってやがる。

「篠宮、山浦先生呼んで来てくれ」

 山浦先生は剣道部の顧問だ。
 何でも桐山のお爺さんの弟子で、時折警察に指導しに行くほどの現役の凄腕剣士だ。

 これ位の腕前の持ち主じゃなきゃ、とてもじゃないが太刀打ちできそうにねえ・・・当然、俺なんざ論外だ。

「そ、それはいいけど・・・。あなたはどうするのよ・・・・?」
「俺に用があるみたいだからな、聞くだけ聞いてみる」
「で、でも・・・」
「いいから行けっての!!」

 俺が怒鳴りつけると、篠宮は弾かれたように教室から飛び出していった。

「さて・・・。外人さん、人違いしてしてないか? 確かに俺は後藤孝一だけど、先祖の事なんか爺さんより前の人なんてまるで分からんぜ」

 シラを切ってみた。
 もし彼女が完全な確証を持たないで来ているなら、シラを切り通してご退場願いたいところだ。

 あ、殺気が増幅した・・・うぐ、失敗?

「・・・土蔵の柱に隠された、白木の箱」
「な!?」

 俺は動揺を隠せなかった。
 あの箱は柱の隠し穴に元通りにしまって、柱の方もきっちり元通りにしておいた。
 穴の蓋をしていた板はかなりきつく嵌めておいたから、そう簡単に外れたりしてばれる事は無い・・・筈・・・。

「私にとってはたいした事じゃないわ。少しだけあの家の住人を眠らせて、その間に過去の出来事を垣間見ただけよ。私が錬金術で作り出した薬と道具でね」

 金髪娘の殺気が僅かに緩み、顔に得意気な笑みが広がった。

「錬金・・・術・・・」

 俺の声はかすれていた。
 そりゃあ、運命改変薬の力で玲子先生との青い初体験をする事が出来たんだから、錬金術の事は信じるようになった。
 しかし、まさか現代までそれを受け継いで、常識じゃ考えられない事をやってのける奴がいるとは考えていなかった。

 ・・・いや、これは俺が思いつかなかっただけだな。
 当然、いると考えるべきだったんだ。

「私の先祖があなたの先祖に伝えた秘薬は危険な物よ。世界の理を書き換え、作り変えてしまう禁忌の中の禁忌・・・。渡しなさい、知恵も知識もない者には手に余る代物だわ、身を滅ぼすだけよ」
「う・・・」

 俺は返事ができなかった。
 俺にだって、あの薬が危険な物だっていうのは何となくだが理解できる。
 多分・・・いや、きっと彼女が言っていることが正しいのだろう。

 けど、それは錬金術師としての正しさだ。
 一般常識として、先祖がプレゼントされた物を、危険だからという理由で子孫から無理やりぶん取っていいなんて理屈が通るのか?

 俺はゴメンだね。
 そもそも、もう飲んじまったもんを返せと言われても無理な相談だ。
 それに、あの運命改変薬は俺のご先祖様が子孫が困った時の為に、一つだけ作って残しておいてくれたもんだ。

 渡せといわれて、そう簡単に渡す気になれるかっつーの。
 それに飲まなかったとしても、この女がどんな事に使うのか分からんのだから、やっぱり渡す気にゃなれねーよな。

「・・・少し、手荒な事をしないとダメのようね」

 金髪娘の殺気が再び強くなる。
 ・・・来るか?

 俺たちの距離は約三メートル。向こうは剣を持ってるとはいえ、この距離なら最初の一撃はかわせるだろう。
 後は逃げ回って、人が来るのを待てばいい。
 山浦先生が来てくれれば理想だが・・・。

「ハァッ!」

 金髪娘が跳んだ。
 違う、跳んだならその軌跡は弧を描いて地面に落ちる。

 彼女は落ちなかった。
 床から僅かに浮かび上がったと思うと、そのまま一直線に俺に突っ込んできたのだ・・・弾丸のように!!

「んなっ!?」

 俺は持っていた通学鞄でとっさに庇いつつ、並んだ机に突っ込む覚悟で横っ飛びした。
 鞄に剣がぶつかった手ごたえを感じ・・・、次の瞬間にはそれがあっさりと消え失せる。

 机と机の間に身を転がして体勢を立て直した時には、金髪娘は立ち位置を変えてさっきと変わらない姿勢で剣を構えて俺を睨んでいた。
 俺はもう一度鞄を盾にしようとして・・・ん、なんか変だぞ。

「うわっ!?」

 鞄を見れば、横一文字に綺麗に切り裂かれていた。
 中に入れていた週間漫画雑誌も、中ほどまで切られている。
 一番驚いたのは、留め金の金属部分まですっぱりと切られていた事だ。
 どんな剣だよ一体!!

「渡す気になった?」
「う・・・く・・・」

 く、くそ・・・!
 まさか、こんな人外の戦法取ってくるとは・・・。

「い、今のも錬金術かよ?」
「重力の制御と、肉体と剣の組成を少々強化しただけよ、大した事じゃないわ」

 事も無げに言いやがった。

「・・・随分と武闘派の錬金術師もいたもんだ」
「無駄話はここまでよ・・・ここまではしたくなかったけど、腕の一本でも切り落とせば口も軽くなるでしょう」

 金髪娘の体が再び浮かんだ。
 こ、これまでか!? 幾らなんでも、二撃目はかわせそうにねぇっ・・・!

「ハッ!?」
「ちぃぃりゃああぁぁっ!!」

 覚悟を決めた瞬間、開け放たれていた教室のドアから飛び込んだ誰かが、金髪娘に向かって疾風のように襲い掛かった!

「・・・グゥッ!!」

 金属と何か硬い物がぶつかり合う音が響き、金髪娘が教室のはじまで吹っ飛ばされた!
 木刀を手に俺の前に立った乱入者は、山浦先生ではなかった。
 チラリと俺を見て無事を確認したのか、軽く笑ったのは・・・。

「・・・間に合ったね」

 剣道部副部長、桐山さつきだった。
 桐山は金髪娘を静かに睨みつける。

「・・・何してくれてんの? 外人さん・・・」
「くっ・・・」

 桐山の視線と迫力に、金髪娘の方がたじろいでいる。
 こ、こいつは・・・。桐山のやつ、怒髪天をつく位のレベルで怒り狂ってるぞ・・・!
 金髪娘の殺気も凄かったが、桐山のはそれを遥かに上回る。
 一度だけ、こんな彼女を見た事があるが・・・まさか、また見る事になるとは。

「・・・私の大事な男に何してくれてんのよ!! 今すぐその首へし折ってやるからそこ動くなっ!!」

 ・・・はい?
 桐山は木刀を金髪娘に向け、何か気になる事を言いながら怒鳴りつけていた。

テーマ:創作官能小説連載
ジャンル:アダルト
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