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ハーレム・ドラッグ第三章―8
 氷室を締め上げる蛇の力によって、再び世界が遮断される。
 この閉ざされた別世界の住人は、俺とスカーレット。
 そして、玲子先生と百合香だけだ。

「後藤君・・・!」
「先生、これから俺の体、色々とぶっ壊れるから。片っ端から治し続けてくれ」
「・・・分かったわ。恵美を・・・助けてあげて・・・!」

 俺は頷くと、スカーレットを睨みつつ百合香に声をかけた。

「百合香、今は大人しくしててくれ。事情、は・・・?」

 妙に静かな百合香の顔を見る。
 ・・・目を回して気絶してた。
 まぁ、俺の腕から得体の知れない物が飛び出したんだから無理もねぇか。むしろこの方がありがたい。

 改めてスカーレットを見る。
 まず、氷室の体をスキャンしてみたが・・・予想はしてたが驚いた。
 きれいさっぱり内臓が無かった。
 あるのは骨と筋肉と脳だけだったのだ。

 本来、心臓やら胃袋やらが収まっているはずの空間は、スカーレットがみっちりと収まっている。
 筋肉と骨はスカーレットのせいなのか、変質して常人の何十倍もの強靱さと頑強さを併せ持っていた。
 どーりで強ぇ訳だぜ。

「それで、これからどうするつもり?」

 スカーレットが薄笑いを浮かべながら言った。

「ここで私を滅ぼしたとして・・・、どうやって内臓をすべて失った人間を助け
ようというの?」

 ・・・悔しいが、確かにその通りだ。
 現代の医学じゃ、まだ人工の臓器は実用化していない物ばかりのはず。
 いくら無数の世界を検索したって、この世界の技術レベルを超えた物をこの場で作り出すなんて事は、いくら俺の力でも無理だ。

 クソッ、どうすればいい・・・?
 こうしている間にも、俺の体は壊れていく。
 玲子先生のおかげで壊れ方はゆっくりだが、それでもじわじわ崩壊は進む。
 まして元から重傷人だったんだ、時間はあまり無い・・・!

「・・・後藤君、もしかしたら、彼女なら恵美を助けられるかも知れないわ」
「え?」

 俺の焦りを感じたのか、先生が俺に声をかけた。

「彼女って?」
「ほら、あの子の事よ」

 先生が指差した先には、倒れ伏す白銀の少女がいた。

「この力を与えるために、彼女は私たちを不思議な場所に連れて行ったの。そこには沢山の道具や、機械のような物で溢れかえっていたわ」

 なるほど、その中に氷室を助ける道具があるかも知れないって事か!
 俺は蛇の一部を白銀の少女に伸ばし、その体をこの空間へと運び込んだ。
 体内の毒素を消すと、すぐに少女は目を覚まして身を起こす。
 周りの光景を見てさすがに驚いているが、その辺の説明はしてらんねぇ。

「手っ取りばやく聞く! 内臓すべてを失った人間を助ける道具とか、アンタ
持ってるか!?」
「え・・・内臓すべてを・・・? ・・・! あの女を助けるため、ですか?」
「察しが良くて助かるぜ、どうだ? あるのか?」
「・・・あります。ですが、私は助けるという事には賛同いたしかねます」
「なに!?」

 驚いて少女の顔を見る。
 感情の浮かんでいない無表情のままだ。

「体内のスカーレット、とやらをすべて滅ぼしたとしても、あの女があなたに牙を向かないという保証はありません。ここで諸共に滅するべきかと」

 無表情のまま、さらっと言いやがった。
 勘弁してくれよ。

「ここまで来ちまったら、そんなこと気にしてらんねぇんだよ! 頼む! 助けたいんだ!」
「私からもお願い、恵美を助けたいの。手があるのなら力を貸して!」

 俺の言葉に続くように、玲子先生の必死の嘆願が少女にぶつけられる。
 彼女は少し考えていたようだったが、すぐに顔を上げた。

「・・・分かりました、そこまで仰るのでしたら。では孝一様、あの女の中から奴を残らず追い出して下さい。体内で滅ぼすのは避けた方が良いでしょう。追いつめれて女を道連れにしかねません」
「了解だ!」

 返事をすると同時に、蛇を氷室の中へと送り込んだ。
 肉、骨、血管に染み込ませ、細胞の一つ一つからスカーレットを追い出していく。さらに遺伝子、分子レベルにまで念入りに!

「グ、ウゥグァア、ア、ァガアアァァァッ!!」

 氷室が獣のように叫んだ瞬間、その口から大量のスカーレットが溢れ出した!
 いや、口だけじゃない。目や鼻はもちろん、全身の毛穴から一気にスカーレットが吐き出された。
 蠢くスカーレットが集まり、一つになった時を狙って白銀の少女が飛び出した。
 その懐から何か光る物を取り出すと、それを氷室に投げつける!
 それが氷室に当たった瞬間、白い霧のような気体が溢れ、彼女の体を包み込んだ。
 霧が晴れた時・・・氷室の体は氷の彫像と化していた。

「体を凍結させました、これでしばらくは持ちます。後は地下錬金研究室で処置をすれば・・・」
「恵美は助かるのね!?」

 先生が嬉しそうに言ったが、返事はあまりいい物じゃなかった。

「・・・あくまでも、命を助けるだけです。それがどんな形であっても。文十郎様のお作りになった道具とて、万能ではありません」
「そんな・・・」

 先生の表情に一気に影が差していく。
 出来れば気の利いたセリフの一つも言いたい所だが、そろそろ俺の体も限界だった。
 両方の肺に穴が開き、萎みかかっていたのだ。
 痛覚は遮断しても、呼吸が出来ないんじゃ窒息しちまう。
 凍った氷室を蛇を使って俺たちの側に運ぶと、そのまま逆行発動を終了させた。

「ひゅ・・・は、ひゅ・・・っ!」
「後藤君!」「孝一様!」

 空気が吸えない。
 先生の力で、やっとか細い息ができてる状態だ。
 まだ終わってない、スカーレットが残ってる・・・!
 路上で全身をゼリーのように震わせているあいつは、宿主だった氷室を失い、どうすればいいのか分からないようだった。
 と、いきなり動き始めた!
 向かった先には本村さんたちがいる!
 あの野郎! 今度は本村さん一家の誰かを乗っ取る気か!
 スカーレットの動きに気づいた白銀の少女が、追いかけようとした瞬間、奴の体が何カ所も『千切れた』。
 千切れた部分は空中に浮き、見る見るうちに縮んで変色していく・・・これは!

「こ、これ以上・・・好きにさせないよ・・・!」

 空那か!!
 毒で震える体を起こし、同じように震える風那がその上半身を支えている。

「残らず食い尽くせ・・・っ!! 『乱竜空牙(らんりゅうくうが)』!!」

 ガゾンッという音がして、スカーレットがもの凄い速さで無数の細かい破片に千切られていく。
 無数の見えない猛獣に食い千切られていくように。

「特にやり方を教えた訳ではないのですが・・・。空那様は力の使い方を直感で精通してしまっていますね、驚きました」

 全然驚いているように聞こえない声で白銀の少女が言った。
 教えてないって・・・ぶっつけ本番だったのか!?
 それであの戦いっぷりかよ。
 まったく、とんでもねー双子だわ。

(あーあ、ここで終わりみたいね~。もうちょっと人生を謳歌したかったけど、諦めが肝心よね)

 不意に、氷室の声が聞こえてきた。
 しかし、彼女は凍っているからそんなはずはない。

(って事は・・・、まさかスカーレットか?)

(そうよ~、孝一クン)

(何だこりゃ? 頭の中に直接声が届いてる感じだぞ?)

(そ。私、弱いけど精神感応能力持ってるから。それであなただけに話しかけてるのよ~♪)

(・・・もう半分は体が無くなってるってのに、ずいぶん明るいな)

(負け確定だもん、悪あがきしてもしょーがないしさ。一つだけ残念なのは、孝一クンと遊べなかった事ね~)

(ふざけんな、人食いのバケモンと楽しく遊ぶなんて趣味はねえっつうの。とっととくたばりやがれ)

(ひどーい。私にとって最高の愛情表現は、相手を食べる事なんだからしょうがないじゃない)

(なに・・・?)

(好きになった人は、食べずにいられないのよ。そういう風に作られたから)

(作られた・・・? 誰にだ!? そいつが改変薬を狙ってる黒幕か!!)

(それは言えないわね~♪ 天才的錬金術師とだけ言っておくわ♪)

(このヤロウ・・・マジムカつく・・・!)

(ねぇ、一つだけ答えてくれない?)

 俺の怒りを完全にスルーして、変わらずのんびりと言いやがる。
 何だか怒るのが馬鹿馬鹿しくなったぜ。
 もうこの時点でスカーレットの体はほとんど残っていない。あと数秒で完全に滅びるだろう。
 少しだけ情けをかけて答えてやっても、バチは当たらんだろ。

(・・・何をだよ)

(私さ~、結局のとこ、人間のことが好きなのよ。憧れてるって言ってもいいわね)

 ・・・意外な言葉だった。
 氷室恵美の家族を食い殺し、本村さんたちを襲い、おそらくはそれ以外にも犠牲者を出しているだろうバケモノが?

(憧れてる? 人間に?)

(うん、それでさ、人間って『生まれ変わり』って信じてるんでしょ?)

(・・・まぁ、人によるけどな)

(もし私が生まれ変わる事ができたら、人間に生まれたいのよね~♪ どう? 孝一クン、私は次の『生』で人間に生まれ変われると思う?)

 一瞬の沈黙。
 その瞬間、スカーレットの最後の欠片が空中に浮き、急速に萎んでいく。
 俺の返事は、ぎりぎりでスカーレットに届いたようだ。
 奴の最後の言葉が、『優しいねぇ、孝一クンは♪』だったから。

コメント
お…久しぶりの更新や♪
お疲れ様です!
さて戦闘は今回でひとまずは終わりかな?
彼女がどうなるのか楽しみですね~
またスカーレットの台詞はなんとなくしんみり。
悪だからといって最初から悪ではないということですね。
来世が幸せであるように…
それではまた~
2009/04/08(Wed) 00:43 | URL | ソウシ | 【編集
コメントありがとうございます
>>ソウシ さん
お、お待たせしました~~~・・・orz
ちょっと短期間に色々あって、さながら気分はハングドマン(吊られた男)なHEKSですw

次回で三章は終了予定で、インターミッション3に入ります。

やっと夕紀とさつきの出番ですw

恵美はどーなりますかねぇw(ぉ
いい意味で、皆さんの期待を裏切れるといいんですが。

2009/04/10(Fri) 09:59 | URL |  | 【編集
Re: ハーレム・ドラッグ第三章―8
待ってましたーーーーー!!!^^

色々あったようで、何も知らないのにお疲れ様とか言ってみます。



いよいよ第三章も終りですか。
恵美のゆく末がホントに気になります^^

また孝一ラバーズが増えるのかな?w


これからも執筆頑張ってください、応援してます^^
2009/04/10(Fri) 23:11 | URL | sk | 【編集
コメントありがとうございます
>>sk さん
お待たせしました~~。
最近、追い詰められたネズミの気分が理解できそうなHEKSですw

今日アップした分で三章は終わりです・・・。
恵美の処遇が後回しになってしまいました(^^;;
四章の早めの段階で書く事になりそうです。

そうそう、あの事についてですが。
ブログパーツで簡単に出来そうですし、いずれやろうと目論んでいたりしますw
まだ暴れていないヒロインがいますので、もうちょっと先になりそうです。

2009/04/13(Mon) 22:43 | URL |  | 【編集
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