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ハーレム・ドラッグ第三章―2
「あら、気が付いた?」

 場違いに明るく軽い声の主は、あの女、氷室恵美だった。

「くそ・・・っ、百合香・・・!」

 俺は彼女には構わずに、百合香の方へ行こうとする。
 が、胸の激痛が酷くて立ち上がる事もできねぇ。這うようにジリジリとしか移動できないのがもどかしい。
 百合香の体は・・・まだ動いてる!
 でも・・・ちくしょう、体の下は血の池になってやがる。
 貫かれた胸の傷から流れ出た、百合香自身の血に間違いないだろう。
 あんなに出血したら・・・!
 俺は右手を伸ばして百合香に触れようとした。

「もう諦めなさいな」

 その声がすると同時に、伸ばした俺の右腕に何本も赤い槍が突き刺さる!
 あのスカーレット・イーターとかいう化け物の、体の一部が槍の様に飛び出して俺の右腕を串刺しにしやがったのだ。

「ぐぁあぁっ!!」
「あなたの彼女はもう手遅れよ。諦めて秘本を渡して、私の物になっちゃいなさい。死なない程度に可愛がってあげるから♪」

 手遅れだ・・・?
 うるせぇ、バカ野郎! 百合香はまだ息がある!
 助かる可能性はまだあるんだ!

「ふざけた事・・・抜かすな・・・!」
「あら、まだ元気があるのね」

 氷室は俺の側にやって来て、俺を見下ろしながら言った。

「でもねぇ、あなたに何が出来るの?」
「くっ・・・」

 氷室の言葉が心に刺さる。

「何の力も持たないあなたが、私をどうにか出来ると思うの? 思って無いわよねぇ~? 意地を張る子って可愛いけど、それも程度問題よ?」

 力・・・。
 この女と闘う力・・・。
 あの化け物と闘う力・・・。

「どうしようもない事は、運命と思って受け入れなさいな。私もこんな体になっちゃったけど、今は毎日が楽しくて仕方がないわ」

 運命? ・・・どうしようもない事は、運命・・・。

「だからさぁ、あなたも『こっち側』にいらっしゃいよ。私のご主人様に紹介してあげる。大人しく秘本を渡せば、私のご主人様も、きっとあなたを受け入れてくれるわ」

 ・・・氷室の話を聞いているうちに、俺の中である物が湧き上がった。

 『怒り』だ!

 黙って聞いてりゃ好きな事ほざきやがって!
 こんな! こんなもんが運命か!!
 百合香は今日、数年分の想いを明かして、俺と結ばれたんだぞ!!
 その日の内にこんなヒデェ目に合うのが、運命だってのか!!
 本村さんたちもそうだ! 桃子ちゃんなんかまだ赤ん坊じゃないか!!
 これがどうしようもない運命だというなら・・・、こんな運命・・・!!

「一緒に人生を謳歌しましょうよ、他人がどうなろうと構わないでしょ~?」
「認めねぇぞ・・・」
「ん?」

 俺の呟きに、氷室が小首を傾げる。

「認めねぇ・・・ぞ・・・! こんなクソッたれな運命・・・! 認められるか・・・っ!」
「元気ねぇ・・・。でも、現実は厳しいのよぉ? あなたに変えられるの? 残酷な運命って奴を」

 変えられるか、だって?
 俺は痛む体に力を込めた。

「変えて・・・やろうじゃねぇか!!」

 無事な左手を握り締め、懸命に『干渉と改変の蛇』の姿を思い出す。
 アイシャとの闘いで、偶然引き出せた『蛇』よ・・・。

(頼む、出てくれ・・・っ!!)

 だが・・・。

「・・・何も起こらないわねぇ」
「ク・・・クソ・・・っ!」

 無情にも、俺の体のどこにも『蛇』は現れなかった。
 何でだよ! なんで出ねぇ! 出てくれよ!!
 このままじゃ、百合香が死んじまうんだよっ!!

「何? スカーレット・・・我慢できないの? しょうがないわねぇ、赤ちゃん食べちゃって良いわよ」
「なんだとっ・・・! テメェ・・・!」

 スカーレットの槍が俺の右腕から無造作に引き抜かれ、痛みに悶絶する。
 そのままあいつは桃子ちゃんの方へ移動し始めた!

「やめろ・・・!」

 慶子さんの胸の上で動かない桃子ちゃんに、スカーレットの体が伸びていく。

「まぁ、これがあの赤ちゃんの運命だったって事ね~」

 また運命かよ・・・!
 認めねぇ、認めねぇ、認めねぇ・・・!
 認めたくねぇ!!

 こんな死に方をする為に、桃子ちゃんは生まれたんじゃねぇ!!
 あいつだって・・・俺の妹だってそうだ! 本当なら、今頃は元気に学校に通って、友達と一緒に遊んで、時々俺とケンカして・・・!
 桃子ちゃんの姿が、俺の妹とオーバーラップして見えた。

 ・・・いつの間にか、俺は泣いていた。目の前が涙で滲んで歪んでいく。
 胸の奥に湧き上がった感情は、さっきまでの『怒り』とは違った物だった。
 その感情と共に、俺は絶叫した。

「こんな理不尽な運命っ!! 納得できるかよぉぉぉっ!!」

 それは、『悲しみ』だった。
 『怒り』と『悲しみ』が混ざり合った感情の渦に、胸の奥が張り裂けそうになる。
 その渦は強い流れとなって、俺の中の力を押し出してくれた・・・。

 『運命改変薬』の力を・・・! 『干渉と改変の蛇』を!!

 俺の左手に青白い『蛇』が現れ、縦横無尽に蠢きまわる。
 左手を中心に、俺の体が熱くなっていく。
 熱が全身に回り、自分が炎の塊にでもなったように感じた時、脳裏にさっきの男の姿が浮かび上がり、俺に言った。

『選んだか、力を振るうことを・・・。よかろう、『運命改変薬』、お前に託すぞ』

 頭の中に、何かが入ってきた。
 ハンマーで頭をカチ割られて、無理矢理に中に詰め込んで、強引にガムテープで頭を塞いだような・・・。
 入って来たものは・・・『干渉と改変の蛇』の使い方だった。

『出来るならば・・・、助け・・・くれ・・・。我が・・・を・・・』

 男の声と姿が消えていく。
 もう何を言っているのか分からなかったけど、その辛そうな表情に、俺は約束した。

(この力で助けられる奴がいるなら、助けるよ・・・!)

 男は消える寸前、微かに笑ったような気がした。

テーマ:創作官能小説連載
ジャンル:アダルト
コメント
Re: ハーレム・ドラッグ第三章―2
おぉーーーーー。

失礼、つい興奮してしまい。
毎度執筆ごくろうさまです。


ついに孝一覚醒!!!!!
しかし妹とは?
なんか過去にあったんでしょうねぇ。


それに孝一の脳裏にでてきた男のいっていた助けてほしい人も気になります。


まぁ楽しみにしつつ、とにかく待ちます。
2009/01/27(Tue) 00:04 | URL | sk | 【編集
更新お疲れ様です。
いや~…アツイ展開ですねぇ~♪
ほんま主人公ええ漢になったのぅ…(涙)
いざずっと俺のターンの勢いで爆発してくれぃ!
それではまた~
2009/01/27(Tue) 18:04 | URL | ソウシ | 【編集
コメントありがとうございます
>>sk さん
孝一の妹については、『第二章―20』にちょこっと描写があります。
つっても、この部分だけでほぼ説明完了してるようなもんですがw
男の助けて欲しいってのは・・・さて誰でしょうw
人か物か動物か植物か微生物か、未来人、宇宙人、超能力者のいずれかですw(ぉ


>>ソウシ さん
か・・・漢。
(ちょっとボケてみましたw)
この熱さをどこまで持続できるかが、腕を問われますな。
・・・自分で書いてて凄い不安になったりして・・・(←小心者w)

2009/01/27(Tue) 22:36 | URL | HEKS | 【編集
Re: ハーレム・ドラッグ第三章―2
孝一、がんばれっ!て感じです。
遠慮なんかいりません。敵は、それも最低の敵は容赦なく徹底的に叩くべきだと思ってます。
自身のしたことを延々と後悔させた上で絶望のどん底に叩き込まないと……どうも最近の傾向というか、敵への対応が甘いものが多くて。納得いかないんですよね。
孝一の敵たち、今のところ全員が多くの弱者を弄んできたような感じですし、徹底的に叩きつぶしてほしいものです。もちろん、虫けらのごとく。彼らがいままでやってきたことを何倍にもしてお返ししてもらいたいものです。
2009/01/28(Wed) 23:45 | URL | Mr.K | 【編集
コメントありがとうございます
>>Mr.K さん
コミック、アニメ、小説などで、敵にもそれまで歩んできた人生があり、それを色々とストーリーに絡めてきますね。
これをやると、ストーリーに深みが出るとでもいうか、入り込みやすくなるという感じでしょうか。
やり過ぎると、主人公より敵役の方が人気が出ちゃったりしますけどw
敵を許して受け入れる事で、主人公の度量(器ともいう)の大きさを表すのも、よく使われる手法ですね。

この『ハーレム・ドラッグ』で登場する敵たちも色々設定がありますが、キャラたちがどう動くかで設定が大きく変わる可能性もあります。
たまにあるんですよ、書いているうちにドンドン作者の思惑から外れていくのに、キャラが勝手に動いてストーリーを作っちゃう事が。

某オラオラオラ~!な漫画のように、痛快にいけるといいなと思ってます。
2009/01/29(Thu) 22:55 | URL | HEKS | 【編集
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