2ntブログ
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
インターミッション―2『魔人、集結』―2
「ぐぅっ・・・!」

 白銀の少女を襲った影はそのまま地上目掛けて落下し、校舎に開いた穴を通ってアイシャたちの側に着地した。
 その姿は、痩せこけた猛禽類を思わせた。
 手も足も、胴体も異常に細い。極度の拒食症患者を思わせる痩せた体だ。

 青白い肌に、残忍な光を湛える鋭い眼。不規則に並んだ牙のような歯は、少女から食い千切った左腕をくわえていた。
 適当に切ったと思われる短髪の頭をボリボリ掻きながら、その人物はゆっくりと立ち上がった。

「あ~~~、ダリィ・・・。何やっふぇんだよ、あんにゃ人形、ひゃっひゃとヤっひまえっての」
「ヴェイン・・・」

 アイシャにヴェインと呼ばれたその痩せた男は、くわえていた腕を掴むとその肉を食い千切り、味見をするように口をクチャクチャと動かした。
 その光景を見て、アイシャは顔をしかめて目を逸らす。
 ヴェインはゴクン、と肉を飲み込むと意外そうに言った。

「へぇ、作り物にしちゃあ、まぁまぁイケるな。けど血まで白銀色ってのは、何かいただけねぇ、血は赤くねえとなぁ」
「それは同感ね。そして肉は生に限るわ」
「食わず嫌いはよくねえぜ、メグミ。スパイスをたっぷり効かせたウインナーを炭火で・・・」
「くだらない話はそこまでにして頂戴」

 いらついたようにピシャリと言い放ったアイシャに、恵美とヴェインは顔を見合わせて肩をすくめた。
 彼女に背を向けて、二人でヒソヒソと話し出す。

「・・・あれか? 難しいお年頃って奴か?」
「違うわよ、また秘本を手に入れそこなったから、いらついてるのよ」
「ああ? 確か小僧一人からぶん取るだけって話だろ?」
「何か、色々邪魔が入ったみたいよ」
「か~~、情けねえなぁ。仮にもジェド様の娘がよぉ・・・」
「そう言わないの。若いうちは、色々壁にぶつかるモンなのよ」
「・・・聞こえてるわよ」

 勝手な事を言い合う二人に、そろそろアイシャの我慢が限界になる寸前、上を見ていたロイドが声を上げた。

「アイシャ、ガリアスも、来た」
「ロイド、私たちも上るわよ」
「オーケー」

 ロイドはアイシャを抱きかかえると、穴から空へと飛び出した。
 その後を追ってヴェインと恵美が軽く地を蹴ると、ロイドを追って空へと駆け上る。
 重力を制御する道具を利用した空中飛行であった。

 空では、ロイドに抱かれたアイシャと、ガリアスと呼ばれていた巨漢に挟まれた白銀の少女が、睨みあっていた。
 さらに恵美、ヴェインと合流し、五人に囲まれた白銀の少女は左腕を押さえつつ全員の顔を見渡した。
 最後にアイシャに向き直り、少女は静かに口を開く。

「よもや、これだけの力を持つ者たちがあなたの仲間だったとは、思いませんでした」

 腕を失った事をまったく気にしていない口調だ。

「仲間、か・・・」

 アイシャは自分で自分を蔑むような笑みを浮かべる。
 その笑みを訝しく思いながらも、少女は聞いた。

「他にも仲間がいるのですか?」
「聞いてどうしようっての? あなた、まさかこの状況で逃げられるとか思ってない?」
「可能性は低いでしょう。ですが、皆無、という訳ではありません」

 恵美の呆れたような声に、少女は間髪いれずはっきりと言い切った。

「いや、可能性は0%だ」

 その背後に、音も無く巨漢が近づいていた。
 少女の白く、細い首を右手で掴み、強い力で締め付ける!

「ぐ・・・っ! が、は・・・っ!」

 気道を塞がれ、少女がもがく。
 万力のような力に手が外れないと悟ると、真紅の花びらが彼女の服の赤い花の模様から飛び出す!
 それらは結合し、伸ばされた反物の布の様になった。その先端部は鋭い刃になっている。

 超金属・ヒヒイロカネによって作り出された、鉄をも切り裂く刃、紅夜叉だ。
 ガリアスの首目掛け、刃は先端を躍らせる!
 だが、少女が刃の先に感じた感触は妙に柔らかく、それなのに切り裂く事ができないものだった。
 少女は無理矢理に首を曲げ、背後のガリアスを見る。

「・・・!?」

 確かに紅夜叉の先端はガリアスの首に当たっている。
 だが、『切り裂けない』。
 ガリアスの皮膚は、恐ろしいほどの硬度と弾力性が共存していたのだ。

「無駄だよ、俺の体は『特殊軟性オリハルコン』で覆われている。そいつもかなり強力な武器のようだが、俺には効かん」

 『特殊軟性オリハルコン』・・・。錬金術でオリハルコンを加工し、驚異的な柔軟性を持たせる事に成功した物であった。
 柔らかいといっても、元のオリハルコンの強度はそのまま有している。
 あらゆる衝撃をゴムの様に柔らかく吸収し、かつ切る事も貫く事もできない・・・。
 彼らの主であるジェドという一人の錬金術師が生み出した、世界中の軍事機関が喉から手が出るほど欲しがるであろう、夢の超金属だ。

「お前にはここで死んでもらおう」

 ガリアスは少女を掴んだまま、一気に降下を開始した!
 その先にあるのは、校舎の屋上。
 巨漢は右手を伸ばし、掴んだ少女を自分の前にかざす。
 屋上に叩きつける気なのだ!
 だが、少女もジッとしてはいない。
 周囲の金色菩薩を再び集め、自分の前に盾を作り上げようとする。

「面倒な奴だ」

 キン、と金属音が右手から聞こえたと思った瞬間、強烈な電撃が少女の体を襲った!

「っあがぁあぁぁあああぁーーー!!」

 ガリアスの手に仕込まれた、強力なスタンガンだった。
 しかし、その威力は護身用の物とは、比べ物にならないほど強力な代物だ。
 護身用のスタンガンの電圧は、高くても五十万ボルトほど。
 対してガリアスの物は、三百万ボルトを超える。
 相手の無力化ではなく、殺傷を目的とした武器なのだ。

 だが、それを首の後ろという人体の危険な部位に受けながら、白銀の少女は絶命はおろか気絶すらしなかった。
 それが、抵抗の限界だった。
 少女の体が屋上の床に叩きつけられ、凄まじい力によって大きく陥没する!
 ガリアスは容赦せず、更に力を込めた。

「ヌゥン!」

 陥没が大きくなり・・・ガリアスの体は床をぶち破った! さらに下の階の階を破り続け、ついに一階にたどり着いてしまった。
 ぐったりした白銀の少女を高く持ち上げると、今度は無傷の天井に彼女の体を叩きつける!

「オォォッ!」

 天井に亀裂が走り、少女の体が食い込んでいき・・・天井を砕き、上の階に飛び出した。
 そのまま、また上の階の天井を破り続け、最後に屋上を突き破り、再び空へと舞い上がる。
 ヴェインが少女を見て、青白い顔を歪めて言った。

「ひでーなぁ、ガリアス。もうちょっと、こう、一思いにヤっちまうとかよぉ・・・」
「殺すことに違いは無かろう。だが、このホムンクルスまだ生きているぞ・・・。信じられん頑丈さだ」
「あれだけやられて!?」

 アイシャが驚きの声を上げ、少女を見る。
 少女は全身傷だらけだった。
 紺色の着物はボロボロに破れ、剥き出しになった白い肌は傷付き、抉られ、傷口から白銀の血液が流れ落ちている。
 しかし、あれだけの攻撃を受けた割には、予想外に軽いものだった。
 とはいえ、受けたダメージは白銀の少女を行動不能にするのに、十分すぎるものだ。

「やむを得んな、今度こそ俺のレーザーで焼き尽くすしかあるまい」
「待って! これ以上の騒ぎはまずいわ。周りの住人に気付かれるかも・・・」
「大丈夫よ。あなたが来る前に、『認識外しの結界』を張っておいたから」

 恵美が数枚の小さな鏡を取り出し、微笑んだ。
 これもジェドの作り出した、錬金術による産物だ。
 鏡面を外側に向けて配置するだけという簡単な物だが、優れた力を発揮する。
 鏡で囲まれた空間内で起こった出来事を、外部の人間が認識できないようにする結界を張る事ができるのだ。
 音も光も振動も、結界内で起こった事は、見ても聞いてもその記憶に残る事はない。
 認識していないという事は、その者にとって『起こっていない』事なのだから。

「・・・そう、それならいいわ」

 アイシャが視線を白銀の少女に再び向ける。
 少女は苦しそうに呻いていた。

「う・・・っ、ぐ、う、は・・・」
「・・・随分と邪魔をしてくれたけど、これで終わりね」

 アイシャの冷たい視線を感じ、白銀の少女は彼女をみつめる。
 その瞳には、まだ力がこもっていた。

「お前、まだ諦めていないの? この状況で何を・・・」
「く・・・倶利伽羅(くりから)、竜・・・!」

 その瞬間、大量の金と赤の花びらが少女の着物から溢れ出した!
 これまでを上回る膨大な量の花びらに、全員の視界がふさがれる。

「悪あがきを!」

 ガリアスが再び電撃を放とうとするが、指先の抵抗が不意に消えた。
 ヌルリとした感触に戸惑う間もなく、金と赤の花吹雪の中心から、か細い声が聞こえてきた。

「降魔、炎(ごうまえん)・・・!」

 金と赤が複雑に入り混じり、絶えず姿を変える炎のように形が変化していく。
 形だけではない。徐々に熱まで発生し、それは本物の炎並みの高温を発してきたではないか。

「やべぇぞ! 離れろ!」
「ロイド! ブレイク・パルス!!」

 ヴェインの声に、全員が白銀の少女から急いで離れていく。アイシャは離れながらロイドに攻撃を命じた。
 ロイドの両肩に仕込まれた、スピーカーに似た振動兵器が露出して振動波を放つ!
 だが、紅夜叉の結合すら強制解除した攻撃が通じない!
 熱は上昇を続け、花びらは更に増え続け渦を巻き・・・。
 ついに、巨大な竜の形に変化した!
 その竜の体に、荒い息の白銀の少女が絡みつかれていた。

「はああぁぁぁっ!!」

 少女が左手を大きく振った瞬間、灼熱の竜が轟音と共に爆発した!

「ぬぅっ!」「うわっ!?」「くっ!」「うひゃぁっ!」

 爆発で拡散した超高温の熱風が、周囲の五人に襲い掛かる!
 慌てて更に距離をとったアイシャたちが再び目を開けた時には、白銀の少女の姿は消え失せていた。

「自爆したの・・・?」
「違うな、見ろ」

 アイシャの呟きに、ガリアスが右手を開いて見せた。
 そこには電撃で焼け焦げてはいるが、白い皮膚がべっとりと張り付いていた。

「奴め、自分の皮膚を強引に引き剥がしたんだ。自爆する気ならそんな事はすまい」
「じゃあ、逃げられたって事か。正直、恐れ入ったわ」

 恵美が珍しく感心したように言った。それは、ヴェインも同じだった。

「作り物にしちゃ、いい根性してるぜ。次に会った時が楽しみだな」
「探すの? ガリアス」

 アイシャの質問に、ガリアスは首を振った。

「いや、俺とヴェインはまだやる事がある。アイシャ、お前はジェド様に呼ばれているのだろう」
「ええ」
「あのホムンクルスは放っておけ、しばらくまともに動けまい。メグミ、お前は・・・」
「私は秘本を取ってくるわ」
「何ですって!?」

 恵美の言葉に、アイシャが驚きの声を上げる。
 秘本の回収は、父から命じられた自分の仕事だったからだ。

「そんなに怖い顔しないでよ。ジェド様の命令なんだから、しょうがないでしょ」
「お父様が・・・、あなたに・・・?」

 彼女の心に、消えたはずの不安が、再び胸の奥に湧き上がる。

「とにかく急いで戻るこったな。行こうぜ、ガリアス」
「うむ」
「それじゃ、私も行くわ。じゃ~ね~♪」

 三人はアイシャとロイドを残し、夜空を飛び去っていった。

「アイシャ、帰ろう」
「・・・うん」

 沈んだ表情のアイシャを抱きなおし、ロイドもまた、ジェドの元へ彼女を連れ帰るべく空を駆け始めるのだった。

テーマ:創作官能小説連載
ジャンル:アダルト
コメント
新年コメント第一号GET
新年あけましておめでとうございます&執筆ご苦労様です。


早速読ませていただきました。


次回いよいよお父様の登場ですか?

和服少女も死んではないみたいだけど、しばらく戦線離脱みたいな感じですね。


取り合えず、ワクワク感とハラハラ感を抑えつつインターミッション2のラスト、期待して待ってます。

2009年も頑張ってください。
自分もマメにコメント入れていきたいと思います。
2009/01/01(Thu) 00:13 | URL | sk | 【編集
あけましておめでとうございます!
そして新年早々の更新お疲れ様です。
さて…なんとか生き残りましたか。
でもこちらがわ最大の戦力がこれってきつすぎやなぁ…
ここらで改変薬か主人公の力が発揮されるのかな?
次回の更新も楽しみです
2009/01/01(Thu) 02:07 | URL | ソウシ | 【編集
逆転劇を期待
もちろん、このまま負けるはずもなく……主人公陣の圧倒的な逆転劇を期待してます。
ただ勝つんじゃなくて、人をなめくさった態度の敵をとことんまで敗北感を与えた上で勝たないと、良いようにしてくれた鬱憤を晴らせませんからね。読者としては、そういうシーンを期待してしまいます。
これからの逆転劇を楽しみにしています。
2009/01/01(Thu) 23:18 | URL | Mr.K | 【編集
あけましておめでとうございます
更新ご苦労さまです。いつも楽しくみさせていただいております。高クオリティを維持した定期的な更新には尊敬と感謝の念でいっぱいです。これからも頑張ってください。
2009/01/02(Fri) 02:04 | URL | まじままこと | 【編集
コメントありがとうございます
新年、明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

>>sk さん
次回はちょっぴりエロありの予定ですw
そうそう、和服娘は『これから』を色々楽しみにしててください。


>>ソウシ さん
第三章で改変薬のごにょごにょがむにゃむにゃ何ですが、裏技と言うか反則技のような感じなので、賛否両論あるかもしれません。
気に入らなくても、石とか投げないで下さいw
あ、おひねりなら歓迎w


>>Mr.K さん
次のバトルシーンは、頭の中で色々展開しております。
後は私の筆力しだい。
・・・一番不安な要素だったりして(ぉ


>>まじままこと さん
応援、ありがとうございます。
出来る限り、頑張ります。
目下の最大の問題は、『真・恋姫無双』にどれだけ時間を取られるかと言う事です(ぉ
2009/01/02(Fri) 10:08 | URL | HEKS | 【編集
コメントを投稿
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可
 
トラックバック
この記事へのトラックバック