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ハーレム・ドラッグ第二章―32
「ふう・・・。驚いた?」
「・・・驚きすぎて、声も出ねーよ。お前の家って、実は凄い金持ちだったのか」
「まあね」
「・・・中学もそうだったけど、いい所のお嬢さんが、何だって普通の高校に通ってんだ?」
「家の教育方針なのよ。上流・下流を問わずに学ぶ為に、高校生までは一般の人と変わらない勉強をするの。家でも家庭教師から少し教わるけどね。大学生になってから学ぶ内容をランクアップしていって、帝王学を身に付けていくのよ」
「帝王学でございますか・・・」

 聞きなれない言葉に、嫌悪感が湧いた。
 いや、何となく『エリート』ってもんを連想したんでね。
「それで中学も高校も、普通にバスと歩きで通ってたのか」
「車で送り迎えされるような一般家庭なんて無いでしょ? 日本中探せばあるかも知れないけど」
「そりゃそうだ」

 頭の方は落ち着いてきたが、多分、俺の顔はまだ惚けているように見えたんだろう。
 篠宮が俺の顔を見て笑ったからだ。

「なんだよー、感じ悪いぞ」
「ごめんなさい。でも・・・フフッ」
「?」
「・・・変わらないね、あなたは」
「中学生の頃から進歩ねぇってか? 大きなお世話だってーの」

 俺は両手を頭の後ろで組んで、座席の背もたれにボスッと体を預けた。
 適度な柔らかさを持ったクッションに、心地よくホールドされる。
 低反発素材って奴かな? いくら掛かってんだかな、この車。

「そういう事だけじゃないわよ。私の家の事を知って態度が変わらなかったって事も含めて、よ」
「そりゃあそうだろ。それだけの財を築いたのはお前の先祖とか親だろ? お前が凄い訳じゃないんだから、態度変える必要なんかねーだろ」
「あなたらしい言い分ね。でもね、変わらなかったのは、あなた以外ではさつきくらいよ」
「さつきの奴は知ってたのか?」
「ええ」

 篠宮はそこで一旦口を閉じた。
 再び口を開いた時、声には寂しさと悲しさがわずかに滲んでいた。

「小学生の時、私の家の事が噂になっちゃってね。友達は皆、態度がよそよそしくなっていったわ」
「・・・小学生の頃に? それ位の子供って、そういうのはあんまり気にしないんじゃないか?」

 友達の家が凄い金持ちって知った所で、『いいな』『凄いな』なんて思うことはあっても、離れていくなんてあまりないと思うが・・・。

「友達の両親はそうじゃなかったって事よ」
「・・・なるほど」

 親の方が警戒しちまったのか。
 本来なら車で送り迎えされるようなお嬢様だ、いじめたり泣かせたりしたらどうなるか分からない。
 その親たちが自分たちの子供に何を言ったのか、大体想像がつくな。

『あの子はお前とは違う』『身分が違う、関わっちゃいけない』

 ・・・大方、こんなとこだろう。
 子供にゃ、そんなこと関係ないのにな。

「タイミング悪く、父さんが仕事上で対立していた幾つかの企業を潰した所でね。・・・関係者の家族もいたんだと思う」
「・・・最悪のタイミングだな」
「うん、ホントにね・・・」

 子供には・・・篠宮には何も罪は無い。
 相手の家族の子供も、何も悪くない。
 それでも、不幸ってのは降りかかるんだよな・・・色んな形で。
 車内に沈黙が満ちた。
 それを溶かすように、篠宮が再び口を開く。

「一人だけ・・・」
「ん?」
「一人だけ、居たんだ。変わらない子が」
「そっか、良かったじゃないか」

 俺は少し明るい声で言った。
 一人だけでも、変わらずに彼女と接した奴が居た事が嬉しく思えた。

「その子は、それからすぐに転校しちゃったけどね」
「・・・それは残念だったな・・・」
「でも、その子のお蔭でどれだけ救われたか・・・。今でも感謝してるわ」
「そっか」

 篠宮の口調から、暗さが消えた。
 その友達の存在が、今まで篠宮の大きな支えになっていたんだろうな。

「小学校を卒業して、私も今の家に引っ越すことになって・・・。中学に入って、あなたと出会った」
「そうだったのか」

 これは初耳だ。
 そういや、中学の時、篠宮の事を見た事のある奴が誰も居なかったっけ。
 以前はかなり離れた所に住んでたのか。
 ・・・? 篠宮が横目で俺を見つめ・・・いや睨んでる?
 はて、機嫌を損ねるようなこと言ったかな。

「ええと・・・何怒ってんだ?」
「別に怒ってないわよ」

 すっごく不機嫌そうな声ですが。
 これはあれだ、触らぬ神に祟りなしって奴だ。
 落ち着くまで静かにしてよう。

「お嬢様。そろそろ到着いたします」
「分かったわ」

 藤堂さんの声が聞こえてきて、篠宮の不機嫌さが幾分和らいだようだ。
 篠宮がまたリモコンを操作すると、白くなっていたガラスが透明に戻って外の景色が見えた。
 車内を仕切っていた壁も下がり、運転している藤堂さんの姿が見えるようになった。
 無表情に前を見て運転するその顔は、柔和ながら真剣な眼差しだった。
 『プロ』の顔つきってのはこういうもんなのかも知れん。男でも見とれるようないい顔だった。

「到着いたしました」

 静かに停まった車から藤堂さんが降り、回り込んで後部座席のドアを開けてくれた。

「ども」

 軽く会釈して降りた俺の前にあったのは、かの有名な六本木ヒルズにも負けないくらいの高層マンションだった。
 呆然として上を見上げる俺の背に、篠宮の声がかかる。

「ホラ、行くわよ。ついてらっしゃい」
「お、おう」

 スタスタと進んでいく篠宮を慌てて追いかける。
 ・・・って言うか、ここに来てやっと実感が湧いてきたぞ。
 自分が超・場違いだっていう事に・・・。

 フロアーの豪勢な調度品は、俺が一生かかっても手にはおろか目にする事も無いような高級品らしき壺とか、大理石のテーブルと椅子とか、壁に掛かった油絵は・・・確か、ゴッホ?
 ・・・レプリカだよな、うん、きっとそうだ。
 でなきゃ、こんな無造作に飾るもんか。

 そんな品物たちよりも、右を見ても左も見ても、高そうな服に身を包んだ品の良いセレブが歩いている訳で。

 ・・・目に見えない壁を感じるぜ・・・。

テーマ:創作官能小説連載
ジャンル:アダルト
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