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ハーレム・ドラッグ第二章―43
「あ~、びっくりした。まさかこんな所で慶子姉さんに会うなんて・・・」

 百合香が胸を撫で下ろして言った。
 まあ、地元以外でいきなり知り合いに出くわすってのは、驚くもんだよな。

「百合香の親族ってことは、あの人もお嬢様なのか?」
「うん。それから、私のバイクの師匠だよ」
「へぇ・・・」

 あの人が百合香のバイクの・・・って事は。

「やっぱり、スピード狂なのか」
「私以上のね」
「・・・はははは」

 笑いが乾いてる。
 百合香の運転を味わってる身としちゃ、笑うしかねーわ。

「中学の時、考ちゃんと再会したはいいけど、私のことを全然思い出してくれなかったから、沈んでた私を元気付けようとしてバイクを教えてくれたの」
「・・・なるほど」

 元気付ける為の手段が、カラオケとかケーキバイキングとかじゃなくてバイクって所が何ともイカシタお嬢様だねぇ。
 ・・・それで百合香が元気を出したと同時に、スピード狂になったことを考えると、何ともはや。

「原付から徐々にランクを上げていって・・・。慶子姉さんが付きっきりで教えてくれたの。そのお蔭で私、今は制限で中型免許止まりだけど、本当はリッターオーバークラスでも乗りこなせるんだよ」
「ほ、ほほぅ」
「取得できるようになったら、すぐに大型免許を取るんだ♪ バイクを買ったら、考ちゃん、一緒にツーリング行こうね」
「あ、ああ、いいな」

 ・・・こいつが大型バイクを乗り回す所を想像して、俺は一抹の不安を感じてしまった。
 いや、遅い車とかバイクを蹴散らしたり、上に乗り上げたりして『走る傍若無人』になりそうだから。

「・・・考ちゃん、今、私が大型バイクに乗ったら凄い走り方しそうだ、とか考えた?」
「な、なに言っちゃってるのかな!? 思い過ごしデスヨ!?」

 ・・・じ~っ。
 百合香の視線が絡みつく、こいつの読心術めいた感の良さのことを忘れていた。

「・・・ふぅ、考ちゃんって、嘘が下手だよね。それが良いとこでもあるんだけど」
「そ、そうか? ははは。あ、そ、そーいえばさ」
「なに?」
「さっきの慶子さんが乗っていった車、軽自動車だよな? お嬢様の雰囲気とは似合わない感じがするんだが」

 俺はとっさに本村さんたちの話題を持ち出した。
 違和感を感じたのは本当だ。お世辞にも綺麗な車とはいえなかったんでね。
 あちこちへこんで、色もあせていて、どう見ても金持ちの乗る車じゃあない。

「ああ、あの二人、駆け落ちしたからね」
「駆け落ち!?」
「そ。親の反対を押し切って・・・ってね。色々あって、赤ちゃんが生まれたことでやっと和解したの。姉さんのお父さん、初孫だからか顔を見せに行くたびにもうデレデレなんだって」
「は~~~・・・」

 金持ちのお嬢様と駆け落ち・・・本当にあるんだ、こういうの。

「さて、私たちもそろそろ行こっか」
「ああ、そうするか」

 残っていたコーヒーを一気に飲み干し、後ろに俺を乗せた百合香はバイクを発進させた。
 最初から飛ばし気味だったけど、さすがにこれだけ乗り続けていれば段々慣れてくる。

 ・・・だから、百合香より早く道路先の異変に気付けたんだろう。

「・・・? 百合香、この先・・・なんか明るくなってないか?」
「えっ? この先の橋の上? ・・・本当だ、何だろう」

 ・・・胸騒ぎがした。
 言いようのない、根拠の無い不安感。
 何だ・・・? これじゃまるで、あの時と同じ感覚じゃないか・・・。
 親父とお袋が死んだ、あの時の感覚と・・・!

「何あれ・・・! 車が燃えてる!?」

 橋の上、ちょうど中間の辺りで軽自動車が炎上していた。
 あれは・・・っ!

「慶子姉さんたちの車だわ!!」

 クソったれ、不安的中かよぉ!!

「百合香、気をつけろ! 道路の上に何かあるのかも知れない!」
「わ、分かった!」

 心持ちスピードを落としつつ、火が届かない所にバイクを止め、俺たちは車に近づいた。
 思ったより火の勢いは強くない。けど、ガソリンタンクに引火したらこんなもんじゃ済まないぞ!

「慶子姉さん!! 弘さん!! 桃子ちゃあん!!」

 炎上する車に向かって、百合香が声を張り上げた。
 桃子ちゃんってのは、あの赤ちゃんの名前か。
 と、その声に反応するようにかすかに声が・・・。

「ゆ・・・百合香・・・!」
「っ! 姉さん!!」

 道路わきに、慶子さんがうつ伏せに倒れている!
 俺たちは急いで駆け寄った。

「慶子姉さん! しっかり!」
「百合香、あまり動かすな!」
「っ・・・!」

 びくり、と百合香の動きが一瞬止まる。
 慶子さんは全身擦り傷だらけだった。
 車が横転した弾みで、外に放り出されたらしい。

「姉さん、弘さんたちは!?」
「う・・・っ、分からない・・・。道路の上から、何か落ちてきたみたいで・・・。弘さん、それに驚いて・・・ごほっ。ひ、弘さんと、桃子は・・・! わ・・・私の、赤ちゃんは・・・っ!」
「慶子さんもう喋らないで! 今探しますから!」

 俺は周囲を見渡し、二人を探したが・・・。
 見当たらない・・・まさか・・・っ!!
 俺は燃え続ける車に目をやった。
 そのまま限界まで近づき、ガラス越しに中を覗くと・・・。

 居た!!

 弘さんは運転席だ! シートベルトで固定されたまま動かない・・・っ。

(ためらってる場合じゃねぇわな!!)

 俺は急いで車に取り付いて、割れている窓ガラスから中を覗き込んだ。
 火の勢いがジワジワ強くなってきている、時間が無い!
 後部座席を見れば、チャイルドシートがあった。中には桃子ちゃんがいたが・・・。
 動いていない・・・?

「う・・・っ ・・・あ」
「っ、本村さん! しっかり!!」

 本村さんが身じろぎをした。良かった、息はある! でも、相変わらず意識は無いようだ。
 ドアを開けようとドアノブを引っ張ってみるが、ビクともしねぇ。
 改めて見れば、車は何回転か転がっていたようだ、全体がベコベコになってやがる。

 車体が歪んでいるんだ・・・! こうなりゃ仕方ない。
 俺は上半身を窓から突っ込んで、シートベルトを外しにかかる・・・よし、外れた!

「くっ・・・! ぬぐぅぅっ!!」

 本村さんの体を窓から何とか引きずり出す。
 改変薬で強化された体が頼もしいぜ!
 何とか引っ張り出し、百合香たちの側まで運んですぐに車に向かう。
 次は桃子ちゃんだ!

 割れていたガラスは運転席と助手席。後部座席のドアノブを試したがやっぱりダメだ、開かない。
 割れた窓から入って、桃子ちゃんを助けるしかねえ!
 俺は気合を入れて車の中に窓から潜り込んだ、きな臭い匂いが鼻を突き、異様な熱気が全身を覆う。
 さっそくチャイルドシートのベルトを外そうとするが・・・。

「ぐっ・・・! どうなってんだこれ・・・!」

 衝撃で、おかしな風にロックされちまったのか中々外れない。
 悪戦苦闘しているうちに火は大きくなり、焦りも増していく。

「考ちゃん!! 早く!!」

 中々出てこない俺に、心配した百合香が怯え交じりの声を放つ。
 もう少し・・・っ、で・・・、外れたぁっ!!
 急いで桃子ちゃんを抱き上げる。びっくりするぐらい軽い、その小さな体を持ち上げても、桃子ちゃんは動かない。

(とにかく、脱出だ・・・!)

 最悪の事態を無理矢理脳ミソの奥に押し込める。
 時間が無い、もう火は運転席の直前まで来てる!!
 俺はぐったりしたままの桃子ちゃんを抱きかかえ、車から抜け出した。
 急いで車から離れると、火は車内に燃え移り、さらに強くなった嫌な匂いを辺りに煙と共に撒き散らしていった。

テーマ:創作官能小説連載
ジャンル:アダルト
コメント
更新お疲れ様です。
…いきなりのピンチ?
少し暗い展開になりそうやなぁ…
しかし新キャラでたばかりで…不憫な(涙)
赤ちゃんの今後が幸あることを…
2008/12/15(Mon) 23:17 | URL | ソウシ | 【編集
毎度執筆ご苦労さまです。
今回も速攻で読ませていただきました。

なんかお姉さんの話が有るんで、百合香も駆け落ちとか色々考えてそうですね(笑)


しかし、このまま玲子先生編に行くかと思ったら……

敵襲(?)キターーー!!!


すみません。前回までの興奮を引きずったまま錯乱&これからの展開への期待に爆発してしまいました。


そういえば、改変薬がちゃんと役に立ったの久々な気がします。


これからも更新楽しみにしてます。
無理をしない程度に頑張ってください。
2008/12/16(Tue) 19:14 | URL | sk | 【編集
コメントありがとうございます
>>ソウシ さん
突然のピンチ、トラブル、アクシデント。
言葉は様々あれど、いざ直面した時に人の真価は問われると思うのです。
孝一君は今のところ合格でしょう。
私なら、うろたえるばかりで何の役にも立たなそうです。
展開が暗くなるかどうかは・・・次回お待ち下さい。


>>sk さん
百合香の駆け落ち・・・。
ミッション:インポッシブル並みのアクションシーンが脳内展開されたのは私だけでしょーかw
孝一を連れ(拉致とも言うw)、ハイウェイ、ゴーストタウン、ジャングルを経て辿りついた謎の遺跡!
迫る追っ手(恋敵とも言うw)を振り切り、飛び込んだ遺跡には数々の罠が!
百合香の(暴走気味の)恋は果たして成就するのか!
2009年春、公開予定はありません!w

ええ、ただいま夜勤明けでハイになっておりますともw
そろそろ寝ます、オヤスミナサーイ・・・。
2008/12/17(Wed) 09:37 | URL | HEKS | 【編集
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