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インターミッション―2『魔人、集結』―1
「くっ・・・! しつこいわね・・・!」

 高速で空を駆ける灰色の巨人、ロイドの腕に抱かれたアイシャは後ろを見て憎々しげに呟いた。
 その視線の先には、付かず離れず自分たちを追って飛ぶ、あの白銀のホムンクルスの姿があった。
 アイシャは公園での後藤孝一襲撃に失敗し、無念の逃走となってしまった。
 白銀のホムンクルスとニンジャ・ガール、その予想外の介入があったとはいえ、最愛の父の期待を再び裏切ってしまった。
 その事実が、アイシャの胸の奥を強く締め付ける。

「アイシャ、どうする」
「・・・ロイド、ステルスモード。今はお父様の所へ戻るのが先決よ」
「オーケー、ステルスモード、オン」

 あまりに無念。だが、今は父の元へ帰らなければならない。
 父が、呼んでいるのだから。
 自分にとって、父の存在が全てであり、自分の全ては父の為にのみ存在する。
 そう、決めたのだから。
 ロイドの姿が、アイシャと共に掻き消すように消えた。
 追っていた白銀の少女が、一旦停止した。

「消えた・・・。幻影ではないようですが、無駄です。金色菩薩の探知からは逃れられませんよ」

 白銀の少女の着ている和服から、金色の花びらが無数に飛び出し、空を舞う。
 しばし漂っていた花びらたちは、ある一点を目指して流れていく。

「そこですか」
「くっ・・・! ロイド、ステルス解除」
「・・・オーケー、ステルスモード、オフ」

 花びらの向かった先の空中に、再びロイドたちの姿が浮かび上がった。
 攻撃するには遠すぎる距離を保ちつつ、両者は相対する。

(化け物め! こうなれば仕方が無いわ、ここで消滅させて・・・!)
(ちょっと待ってよ、アイシャ)

 頭の中に、直接女の声が響いた。
 陽気で、お気楽な軽い口調の声。
 その声を聞いて、アイシャの顔が嫌悪に歪んだ。

(メグミ・・・! 近くに居るの?)
(居るわよ~♪ あなたの真下にね♪)

 アイシャは下へと視線を向けた。
 そこは、孝一が通う、あの高校であった。
 その校舎の屋上に、東洋人の女が一人、風になびく髪を抑えながら立っていた。
 二十台半ばと思われる、妖艶な雰囲気を漂わせる美女・・・氷室恵美であった。
 着ている物は、鮮血の如き赤いワンピース。
 背中の中ほどまで伸びた髪は、月光を淡く反射して幻想的な光に変えていた。
 その艶やかな黒髪を父が褒めていた事を思い出し、アイシャは嫉妬で拳を握り締めた。

(そんな所で何をしているの? あなたの仕事は・・・!)
(とっくに終わったわよ。今は、ちょっとつまみ食いしてただけ)
(つまみ食い・・・? あなた、まさか!?)

 目を凝らすと、女の周囲に五つの人影が倒れているのが見えた。

(殺してないから安心してよ♪ ちょっと頭の中をかじった・だ・け・よ♪)
(メグミ・・・ッ! あなた、今がどんな時か分かっているの!? 不要な騒ぎは・・・!)
(大丈夫よぉ、ジェド様から許可貰ってるんだから)
(お父様が・・・?)
(ジェド様も、そろそろ行動を開始するつもりみたいよ。あなた、またしくじったんでしょ?)
(っ・・・! 何故それを・・・!)
(ジェド様はお見通しって事よ♪ あなたの二度の失敗に、痺れを切らしたんじゃない?)

 アイシャの心に、深く暗い絶望が走る。
 父の為に働くことが全ての自分にとって、父の手を煩わせるなどあってはならない事だったのだ。
 まして、この事が原因で父に見限られでもすれば・・・。
 知らず知らずの内に全身に震えが走り、呼吸が荒くなる。
 胃液が逆流し、喉元に迫る。
 まるで重度の病気にでもなったように、体が重くなっていく。

「アイシャ、大丈夫」
「え・・・?」
「ジェド様、アイシャが、一番、大事。本当の娘、捨てる事、絶対、無い」
「ロイド・・・。うん、ありがとう」

 アイシャは巨人の腕の中で、安堵の表情を見せる。同時に、体の不調も嘘のように消えていった。
 再び白銀の少女を見たアイシャは、彼女の背後に、一瞬何かが光るのを見た。

「あれは・・・っ!! ロイド降りて!! 逃げるのよ!!」
「オーケー」

 ロイドはほとんど落下に近い速度で、校舎の屋上目掛けて全速力で降下する。

「アイシャ、中に入るか?」
「その方が良いわ!」
「分かった」

 ロイドの両肩が大きく開放され、スピーカーに似た装置が露出した。
 それが黒から金に色を変え、凄まじい高周波を発生させる!
 高周波の振動は屋上のコンクリートを容易く砂に変え、大きな穴を開けてしまった。
 ロイドはそのまま振動を発生させ続け、最上階の床にも穴を開け、更に次の床にも開け・・・。
 地響きを立てて一階の床へ着地した。

「アイシャ、大丈夫か?」
「ええ・・・」

 粉々に砕かれたコンクリートの土煙を上げる中、アイシャは上を見上げた。
 ぽっかりと開いた大穴の向こうに、夜空が見える。
 その穴を降りてロイドの隣に降り立つ者がいた。
 恵美である。

「ちょっとぉ、いきなりびっくりするじゃない。どうしたっての?」

 両手を腰に当てて少し怒ったように言う彼女を一瞥し、また穴を見上げたアイシャが答える。

「ガリアスの攻撃が来るわ」
「えぇっ!? ・・・よりにもよってあいつの攻撃かあ・・・」

 げんなりした表情で言った恵美も、穴から夜空を見上げる。
 その先には、彼女たちを見下ろす白銀の少女の姿があった。

「逃げた? ・・・っ!! 何ですか、この異様な力の流れは・・・!」

 白銀の少女は強力なエネルギーを感じ、後ろを振り向いた。
 が、何もいなかった。
 しかし、いたのだ。
 彼女の後方、約二キロほど離れた空中で大きな砲身を構える、ロイドを頭一つ分上回る、巨体の男が。
 軍人の着るような迷彩服で身を包み、その顔には大きな傷が右目の上から左の頬まで走っている。
 よく見れば、構えていた砲身と思われた物は、彼の右腕そのものだった。
 右手首が外れて垂れ下がり、本来骨や筋肉があるはずの空間はくり抜かれて空洞になっている。
 その中に、白い光が満ちていき・・・。
 それが砲身いっぱいに満ちた時、男が叫んだ。

「ファイア!」

 その瞬間、目の眩むような強い光が砲身から発射された!
 それは周囲の空気分子をイオン化させながら、白銀の少女目掛けて光の速さで突き進む。

「金色菩薩!!」

 少女の眼前に金色の花びらが急速に集まり、円形の強固な盾を作り上げた。
 そして、白い光と金色の盾がぶつかり合う!

「ぐっ・・・! くぅぅ・・・!!」

 まるで巨大な砲弾でも受け止めたかのような衝撃に、少女が顔を歪ませる。
 金色菩薩の能力をもってすれば、実体を持たないエネルギー的な存在による攻撃は、もっとも防御力の弱い状態でも七~八割ほどは無効化する事ができる。
 だが、今は防御力を最大にし、さらに前面に集中させている。
 これでなお、この白い光は盾を突き破らんばかりの力で少女に迫っているのだ。
 このままでは金色菩薩の結合を破壊され、元の花びらに戻った瞬間、彼女の体は光に貫かれて跡形も無く消滅してしまうだろう。
 信じられないほどの、途方も無いエネルギーを内包した攻撃だ。

「防ぎきれないのなら・・・流すまで!」

 少女は受け止めている盾の角度を調節し、光を真下へと受け流した。
 その先にあるのは、校舎の屋上である。
 先ほどロイドが開けた穴のすぐ隣に光が当たると、紙の様にあっさりと貫通してそのまま一階に到達し、更に地下を走る下水道にまで一気に大穴を開けてしまった。

「うひゃあああっ! ガリアスのバカー!! 少しは手加減しなさいよねー!!」

 近くにいたアイシャたちはパニック状態になるが、すかさずロイドが二人に覆いかぶさってその身を守っていた。

「アイシャ、怪我、してないか?」
「大丈夫、かすり傷よ」
「あたしは無視ぃ? さみしーなぁ」

 攻撃が収まり静かになると、アイシャは恵美の軽口を無視し、新たな穴を見上げた。
 その先には、肩で息をする白銀の少女の姿が見えた。

「・・・ガリアスの攻撃を受け切るなんて・・・」

 声に、畏怖の感情が混じる。
 並みの人間なら、たとえあの花びらの盾を使ったとしても、腕の骨は完全に砕け、下手をすれば肩口から腕が吹っ飛んでいただろう。
 一体、あのホムンクルスはどれだけのポテンシャルを秘めているというのか。
 だが、さすがにあの攻撃を受けた直後では、体の自由がきかないようだった。

「くっ・・・何という力の攻撃・・・! 残念ですが、そろそろ潮時ですね・・・」

 痺れる腕を押さえ、白銀の少女は退却の姿勢を取る。
 その一瞬、隙が生じた。

「ヒャッッッハァァァ!!」
「なっ!?」

 上空からの、奇襲。
 ハヤブサのような高度からの攻撃に、痺れた体で防御が間に合うはずも無い。
 衝撃を感じた時には、少女の左腕は肘から先を切断されていた。

テーマ:創作官能小説連載
ジャンル:アダルト
コメント
急激に展開が加速してきましたね。
どうも運命改変薬の存在感が薄くなってきたような気が……孝一はピンチを切り抜けられるのでしょうかね?
まあ直前に善行をしているので、きっと(ry

台詞が全体的に説明的すぎるのが読んでいて気になります。
考えてることなどはできればモノローグや行動で読み手に察せさせるように意識されてみては?
技の名前を叫ぶのは様式美なのでいいと思うのですが、戦闘中に自らの行動を逐一口に出すのは……駆け引きの要素を失わせることになるのでもったいないですよ。
まああくまで私見ですので、参考にならないと判断されたのならスルーしてください。
2008/12/30(Tue) 08:32 | URL | クロガネ | 【編集
気づけばもう年末。
毎度執筆ご苦労さまです。


アイシャはファザコンでしたか。

なんか狂信者みたいな感じはしましたが、まさかパパ命とは、ちょっぴり意外でした。


しかし、和服少女ピンチですね。

5対1ですか。

死亡フラグっスね



来年もしっかり読ませていただきます。

HEKSさんもお忙しいでしょうが頑張ってください。





2008/12/30(Tue) 10:08 | URL | sk | 【編集
またまたピンチ!?
今年の最後でこんなフラグたてるなんて…恐るべし!
しかし敵さん勢力強すぎねぇ?
それではよきお年を…
2008/12/31(Wed) 04:10 | URL | ソウシ | 【編集
コメントありがとうございます
>>クロガネ さん
改変薬の存在感・・・しまった、私も忘れていました。

嘘ですw

改変薬は、ごにょごにょとほにゃららで三章の冒頭でむにゃむにゃな予定です。
ご意見の事ですが、参考にならない? とんでもない、参考になるし、嬉しいですよ。
私の場合、台詞による説明が癖になってしまっているのかも知れません。
少しずつ、直せるように挑戦してみます。


>>sk さん
アイシャはファザコンはファザコンでも、かなりやばいファザコン何ですけどねw
いずれ、その辺もはっきり書きますんで。
さて、和服少女はどうなるのか。
今日アップした、『魔人、集結』―2を御覧下さい。
・・・更に大変になってますけど。


>>ソウシ さん
何とか、今年最後にもう一度更新できました。
・・・ピンチがレベルアップしてますけど。
敵勢力はまだ親玉が出ていない所から、その厄介さを想像して見てください。


次回でインターミッション―2は終了の予定です。
あの子とあの子とあの人が、出番待ちでスタンバっておりますw
2008/12/31(Wed) 18:22 | URL | HEKS | 【編集
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