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インターミッション―1 『白銀(しろがね)の守護者』―3
 白銀の髪と瞳を持つ少女は、自分とさほど変わらぬ年齢に見えた。
 だが、その表情からはおよそ感情らしきものを読み取る事ができないほどに無表情であった。

「・・・誰かは知らないけど、ここで調べる事はすべて終わったわ。大人しく帰るから、見逃してくれないかしら?」

 金髪の少女は白銀の瞳を睨みながら、ゆっくりと懐に手を伸ばす。屋敷にいた人間を眠らせた砂を、入っている小箱から一掴みして握った。

「主となる方に危害を加えるかも知れない者を、野放しにする訳にはいきません。ここで死んでもらいましょう」

 淡々とした、冷たい声。
 能面のように動かない氷のような顔と瞳。
 睨み付けている自分の方が、その冷たい視線に絡め取られてくように感じ、少女の背筋に悪寒が走った。

「・・・くっ!」

 震えを払うかのように体を動かし、一気に梁から飛び降りる。
 白銀の少女もそれを追って飛び降りた。
 空中で握っていた砂を白銀の少女に向けて投げ放つ。唇の動きに合わせて、砂は生き物のように白銀の少女の目蓋に張り付いた。
 金髪の少女の顔に、相手が眠りに落ちることを確信した笑みが浮かぶ。

 次の瞬間、その笑みが驚愕によって掻き消された。
 白銀の少女は砂を気に留めることも無く、一切の動きを止めず、彼女に向かって襲い掛かってきたのだ!

 真っ直ぐに伸ばされた手刀が喉を抉る寸前、着地すると同時に大きく跳んでかわし、土蔵の外に飛び出した。
 同じく外に出た彼女と見つめあい、二人の動きが止まった。
 僅かに血の滲む喉に手をやりながら、かすれた声で言った。

「あなた・・・人間じゃないわね。薬と本の守護を命じられた『ホムンクルス』か」
「・・・」



 白銀の少女は沈黙したままだが、金髪の少女はそう確信していた。
 『砂男の砂』は人間相手ならば絶大な効果を発揮する。先程の屋敷の人間達で実証済みだ。
 それがまったく効かない。
 さらに、自分の喉に僅かに触れた手刀は人にはありえない程の硬質感だった。

『隠された宝には、それに見合った危険が付きまとう』

 出立前に父に言われた言葉が金髪の少女の脳裏に甦る。
 彼女は落とし穴や毒の矢が飛んでくるような罠、或いは錬金術で創り出された道具による罠を想像していた。
 それが、錬金術の秘儀中の秘儀によって生み出される、ホムンクルスを守護者にしていようとは。

 ホムンクルスに使えそうな道具など、一つだけしか持ち合わせていない。
 その道具はあまり使いたくない物だった。
 しかし、目の前の白銀のホムンクルスは何のためらいも無く自分の命を刈り取ろうとした危険な相手だ。
 彼女の取れる方法は、一つしかなかった。

「pupil! GO!(瞳よ! 行け!)」

 叫び声と共に、ジャケットの内側から小さなビー玉のような玉が幾つも飛び出した。白銀の少女に向かって、空中を矢のような速さで飛んでいく。
 白銀の少女は横に飛んでかわすと、その勢いで敵と認めた少女に襲い掛かろうとした。
 彼女が玉を放つと同時に、逃げの体勢に移っていたからだ。

 が、それはできなかった。
 いつの間に追いついたのか、かわした玉が足に噛みついていたのだ。

 ビー玉のような玉に裂け目ができ、そこに鮫を思わせる鋭い牙が生えていた。
 さらによく見れば、玉には一つの目が生まれているではないか。
 その目は血肉に有りつけたことを喜んでいるかのように、歓喜の色を見せていた。
 何個もの玉がその牙をもって、白銀の少女の肌に次々と喰らいつく。
 手足を玉たちに噛みつかれ、思いのほか強いその力に動きを封じられてしまっていた。
 痛みを感じていないのか、そもそも痛覚が無いのか、流れる血を見ても少女の表情が変わる事は無かった。

 その間に金髪の少女は驚異的な速さで庭を横切り、既に屋敷を取り囲む壁の上に辿り着いていた。
 振り返り、動けないホムンクルスを認め、その唇が小さく動く。

「expolsion(爆発)・・・!」

 その呟きが終わった瞬間、白銀の少女の血肉を味わっていた玉たちが一瞬動きを止め――爆発した。
 全ての玉が同時に爆発したその爆音は、自動車のバックファイア程度にしか思えない程度の小さな物だった。
 『砂男の砂』によって眠らされた者たちは、この程度の音で起きる事は無いのが彼女にはありがたかった。

 爆発によって生まれた煙が晴れると、白銀の少女がそこに倒れていた。
 両手足の肉が無残に吹き飛び、所々から白い骨が垣間見えている。
 だが、倒れていた少女はその手足を動かしてこちらに向かおうとしていた。
 地を這いずる虫のような光景だった。
 だが、これだけの傷を負いながら、なおその表情は氷のように無感情であった。

 金髪の少女は全身総毛だった。
 『牙の瞳』では倒しきれないだろうと思っていたが、自分を狙うその執念とあの氷のような顔に、この上も無い恐怖心が湧き上がった。

「化け物・・・! これ以上、あなたに関わっていられないわ!」

 そう言い放つと、金髪の少女は夜の闇へと消えていった。

「・・・」

 それを成す術も無く見送った白銀の少女は、ようやくその動きを止めた。

「失態ですね・・・。これでは、完全治癒まで動けそうにありません・・・」

 彼女は動かぬ手足を無理に動かし、土蔵へと這いながら戻った。
 土蔵の中、その床の片隅に人一人が体を横たえられそうな穴がぽっかりと口を開けていた。
 中には水のような液体が満たされている。
 その液体の中に少女が落ちるように身を浸すと、液体が青い光を放ち始めた。
 光の中、少女は奥深くに沈んでいく。穴はかなり深いようだ。

(申し訳ありません、文十郎(ぶんじゅうろう)様・・・。傷が癒えたら、すぐに文十郎様の後を継いだお方の守護に向かいます・・・)

 彼女がゆっくりと目を閉じると、床の穴は横からせり出してきた厚い板に塞がれて周りの床と区別がつかなくなった。
 土蔵は元通りの、静寂を取り戻した。


 この夜の出来事は、屋敷の新たな住人たちに気付かれることは無かった。
 翌朝目を覚ました人々は、自分達は宴会の途中、酒のせいで眠ってしまったのだと思っていたからだ。
 ただ、土蔵の扉があいていた事と、土蔵近くの庭の一部に、何かが燃えたような焦げた跡が残っていたのを見つけ、家人たちは首を捻っていた。
 それも、酔った主人辺りが何かを持ち出して燃やしたのだろう、と無理やりに自分達を納得させてしまったのだった。


 金髪の少女が水銀鏡で見た少年――後藤孝一の所在を突き止め、彼に襲撃をかけるのはこれより暫く後のことである。


インターミッション―1
『白銀(しろがね)の守護者』―END

テーマ:創作官能小説連載
ジャンル:アダルト
コメント
頑張ってください。続きを早く読みたいです
2008/02/04(Mon) 22:20 | URL | 泰 | 【編集
コメントありがとうございます
>>泰 さん

はい~、じりじりとですが進めております~。
最近忙しくなってしまい、更新が週一ペースに落ち込んでおります。
早ければ金曜日くらいにUPできるかと・・・。
できる事を祈っててください(ぉ
2008/02/06(Wed) 00:46 | URL | HEKS | 【編集
なんだか
ファンタジー色ばっかりで、ちっともえっちなシーンが出て来ませんね。がっかりです。楽しみにしてるので頑張って下さい
2008/02/06(Wed) 23:11 | URL | ゆか | 【編集
どんどん面白くなってきました
今はハーレム系官能小説となってますのでエッチシーンにこだわってる方がいるのは当たり前とは思いますが

私はエッチシーン無くても全く構わないなって思っています! うんそれでも面白いから
官能小説なんて肩書きあえて書かないで外しちゃってハーレムラブファンタジーみたいに軽く名乗るだけにしてどんどん話を膨らまして欲しいくらいです、エッチシーンなんて後回しでもいい!!
2008/02/08(Fri) 01:22 | URL | Moon | 【編集
コメントありがとうございます
>>ゆか さん
ガッカリさせてしまって、申し訳ありません。
ついさっきアップした第二章の1にはまだHありませんが、第二章はHシーンメインになる予定です。
もうちょっとお待ちくださるとありがたいです。

>>Moon さん
お褒めのお言葉、ありがとうございます。
話の導入部である第一章は、日常シーン中心の為ラブコメ主体に書いていたので、どうしてもHシーンは少なくなってしまいました。
それでも面白いと言ってくださるのは、純粋に嬉しいです。
とはいえ、私はスケベですw
ええ、漫画でも小説でもゲームでもエロ好きですとも!www
だから『官能小説』ジャンルで書いているのですw
ただ、もしも官能小説内に『ライトHノベル』というジャンルがあったならそちらに登録していたでしょうね。
気楽に読めて、楽しくてHな物を書いていこうと思っています。
2008/02/10(Sun) 08:25 | URL | HEKS | 【編集
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