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ハーレム・ドラッグ第二章―33
「どうぞ、入って」
「お邪魔します・・・ぅわ」

 エレベータに乗り、最上階にある篠宮の部屋に入って出た第一声がこれだ。
 無駄に広い部屋の中には、テレビでしか見たことの無い高そうな家具が並び、壁の一面が全部ガラス張りで眼下の景色が一望できるようになっていた。
 そ~っと下を覗いて見れば、米粒のような人々が動いている。
 う、胸の辺りに奇妙な圧迫感が・・・。好んで見るもんじゃねえな。

「お茶を入れてくるから、適当に座って待ってて」
「ああ・・・」

 そう言って隣室に消えた篠宮を見送り、やたらにでかいソファに腰掛けた。
 む、このとても良い肌触りは・・・本皮製?
 いくらすんだろ・・・。
 ・・・ああ! もう色々と気にすんのはヤメだヤメ!
 相手は桁外れの金持ち何だから、差があるのは当たり前だ!
 気にしてたらその差に落ち込むだけだ。

 ・・・・・・。
 よし、切り替え完了。これ以降は滅多な事で思考停止はせんぞ。
 ・・・まあ、壺や皿を壊したりしないように、それだけは気をつけよう・・・。

「お待たせ」

 紅茶を入れるためのセット一式をトレイに乗せて、篠宮が戻ってきた。

「・・・どうしたの? 顔が微妙に歪んでるわよ?」
「気のせい、気のせい」

 うぅむ、高級品に囲まれているというプレッシャーはそう簡単には払拭できんようだ。
 何とか慣れるしかあるまい。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

 篠宮が入れてくれた紅茶を飲みながら、何か話そうと頭の中をひねくり回すが・・・何もネタが出てこねぇ。
 よくよく考えてみりゃ、俺たちの普段の会話って・・・。

 篠宮の髪にゴミが付いていたので、指摘しようと近寄った時。
『何をする気? 気安くそばに寄らないでよね、何だか金縛りにでもなりそうだわ』

 篠宮が落とした携帯ストラップを拾ってやった時。
『・・・拾ってくれた事には感謝するけど、今度からは洗濯済みのハンカチで包んで拾って頂戴。保健室で消毒用アルコールを貸してもらわなきゃ・・・』

 篠宮が掃除中に俺の机を途中まで運んだ時。
『あれ、よく見たら後藤の机じゃない。後藤、あとは自分で運びなさいよ』

 篠宮が・・・もういいや、思い出すの終了。だんだん空しくなってきたぜ。
 中学の頃からずっとこんな調子なんだよなぁ。何でこんなに嫌われたのか、そもそもの理由が分からん。
 金城や高原に言わせると、『ツンとデレが八対二ぐらいの割合だね。ほら、好きな子にはついつい辛く当たってしまうってやつ? 照れ隠しだよ』って事らしいが・・・。

 はっきり言って、イジメにしか感じられなかったぞ。
 でも、不思議と篠宮を嫌いにはなれなかったんだよなぁ・・・。
 何を言われても、許容できたというか、さほど堪えなかったというか。
 だからって、別に感じたりはしてなかった! 俺はMじゃない! 断じて!!

「・・・何を悶えてるのよ?」
「はっ? あ~、いや、ちょっと緊張してるだけだ」

 いつの間にか、俺は挙動不審になっていたようだ。
 落ち着け俺、今からこんな事でどうする。
 今日は篠宮とHするんだろ、落ち着いてリードしてやらないと・・・。
 彼女も緊張してるのか、いつもと違って実に静かだ。

 と、ここら辺で落ち着いた俺は、やっとある事に気が付いた。
 まだ昼前じゃねーか・・・。
 いくら何でも早すぎる。人にもよるだろうが、太陽が睨みをきかせているこの時間にそんな気になるのは、ちと無理がある。
 そんな事を考えているうちに、そろそろ腹が減る時間が近づいてきていた。

「ねえ、お昼はルームサービスでいい?」
「えっ? あ、ああ、いいけど・・・ルームサービス何てもんがあるのか?」
「ええ、地下にこのマンション専用の厨房があるの。朝七時から夜十時まで注文を受け付けてくれて、三ツ星を取った事もあるフランス帰りのシェフの料理が届けられるわ」

 ・・・呆れたね。
 どんだけ金かけてんだよ、このマンションは。

「・・・すげえな。まあ、軽いもんでいいよ。そんなに腹へってねーし」
「分かった。じゃあ、サンドイッチにするわね」
「ああ、任せる」

 篠宮が電話で注文して料理が届く間に、俺たちはテレビを見て過ごした。
 何型なのかも分からない、ドでかい液晶テレビに映し出されるニュースは、やっぱり例の公園とうちの高校、それに『小・中学校で謎の集団中毒?』と命名された事件のことばかり。

 公園と高校はともかく、小・中学校のは謎だらけだ。
 薬物等の反応は無し。
 学校の敷地内にもまるで異常無し。
 昨日から今日にかけての不審者の目撃証言もまったく無し。
 これがアイシャ、あるいは改変薬を狙っている連中の仕業なら、一体何がしたいんだ?
 ま、この辺のことは今気にしてもしょうがない。

 心配なのは、白銀の少女のことだ。
 無事でいればいいんだが。
 今頃、アパートのドアの前で、ポツンと佇んでいるんじゃなかろうか。
 まぁ、もしそうなら大家さんが助けてくれるだろう。おっかないけど、面倒見の良さは一級品の婆ちゃんだ。

 しばらくして、玄関のチャイムが鳴った。料理が届いたようだ。
 篠宮が持ってきたサンドイッチは、色とりどりの野菜や果物で飾られて、見た目にも豪華だった。
 中身の方も豪華だったけど。
 焼きたてのパンに、キャビアとかフォアグラとかたっぷり挟んであって、それはそれは美味かった。
 しかし、正直俺のような貧乏人には、食うのがためらわれる代物だったぜ。

「一体、何が起こってるのかしらね」

 俺の気持ちをよそに、篠宮がテレビを見ながら呟いた。

「・・・さあなぁ」

 本当のことを言う訳にはいかんし、言っても信じてもらえんだろう。
 必死でとぼける俺の顔を、篠宮は澄んだ瞳で見つめていた。

「・・・食事が終わったら、行きたい所があるからちょっと付き合って」

 サンドイッチの最後の一口を飲み込んだ時、篠宮が言った。
 気のせいか、何か決意をして言ったような、覚悟のこもった言葉だった。

テーマ:創作官能小説連載
ジャンル:アダルト
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