2011年03月04日 (金)
「よし、二人の名前も取り敢えず決まったし・・・。本を回収して戻ろうか」
俺はそう言って立ち上がると、古い木製机の上に置いてあるパソコンに近付いた。
牛丼屋のバイト代から残った僅かな金をコツコツ貯めて、オタクコンビの金城と高原に色々教えて貰い、パーツを買って組んだ低スペックながら愛着のある自作パソコンだ。
「孝一、パソコンの中に本を隠したの?」
「いや、あの本って結構厚みがあってな、とてもじゃないが入らないよ」
俺はパイプ椅子を引き出し、キーボードをずらすと開いた机の上を拳で殴りつけた。
その音に驚いて三人が身を竦めるが、構わずに机の下に手を入れる。
「孝ちゃん、何して・・・え?」
衝撃で机の裏から俺の手の平に落ちてきたのは、『運命改変薬秘伝』と書かれた古文書だ。
俺はそう言って立ち上がると、古い木製机の上に置いてあるパソコンに近付いた。
牛丼屋のバイト代から残った僅かな金をコツコツ貯めて、オタクコンビの金城と高原に色々教えて貰い、パーツを買って組んだ低スペックながら愛着のある自作パソコンだ。
「孝一、パソコンの中に本を隠したの?」
「いや、あの本って結構厚みがあってな、とてもじゃないが入らないよ」
俺はパイプ椅子を引き出し、キーボードをずらすと開いた机の上を拳で殴りつけた。
その音に驚いて三人が身を竦めるが、構わずに机の下に手を入れる。
「孝ちゃん、何して・・・え?」
衝撃で机の裏から俺の手の平に落ちてきたのは、『運命改変薬秘伝』と書かれた古文書だ。
「ちょっと、その机どうなってるの? ・・・ぅわ」
さつきが机の下を覗き込んで妙な声を上げた。
まぁ無理もない。この机の天板の裏には、白アリが食ったと思われる穴が開きまくっているのだから。
元々この机は爺さんの家に住んでいた頃から使っていた物だが、作られたのが明治だか大正だかの頃という骨董品である。
そいつを俺が爺さんから中学に上がった時に貰い受け、以来ずーっと使い続けている。
俺が貰った時には既に白アリの穴が開いていたが、使い続けていくうちに穴が広がってしまった。
アイシャの最初の襲撃後に本を隠すのに良い場所はないかと探した時、 そこへ試しに本を突っ込んでみると、これがまた良い具合に収まったのでそのまま本の隠し場所にしていたのだ。
「それが・・・改変薬の事が書かれた秘本ですか・・・」
「ああ、まだ全部読み切ってないんだけどな」
白銀の少女・・・もとい、雪音(仮)さんなら読めるかもな。
もっとも、改変薬の事も、干渉と改変の蛇の事も、既に頭の中に入っているからもう必要無いかも知れないけど。
よし、戻るとするか。
俺はポケットからジッポーライターのような白い箱を取り出す。
これを開ければ、自動的に地下錬金研究室へと運んでくれるんだったな。
「孝ちゃん、ちょっと待って」
「どした? 百合香?」
「私は一旦、家に戻るわ」
突然の百合香の言葉に、俺は驚いた。
「戻るって・・・どうしたんだ?」
「ちょっと調べたい事があるの」
「調べたい事?」
「あの連中の事よ。篠宮家のコネとネットワークを使って、出来るとこまで調べてみるわ」
コネとネットワークて・・・さすが金持ちと言うべきか。
「・・・でも、危険はないのか?」
連中が何処までの力を持っているのか、分からないのが気に掛かる。
雪音(仮)さんから聞いたが、彼女を襲った奴らはスカーレットに乗っ取られていた恵美さんを除くと、アイシャとロイドの他に、異様に痩せた男と軍人のような大男がいたそうだ。
加えて、連中のボスと思われる、スカーレットが言っていた『天才的錬金術師』。
さらにもう一つの不安材料が、この近辺の小中学校で発生した、生徒達が次々と気分が悪くなったという怪事件だ。
もしもこれら全てが連中の仕業だとすれば、これだけ大掛かりな事をやらかす財力・権力を持っている可能性がある。そして、それが篠宮家以上の物だったとしたら?
そいつらの情報を探る事で、百合香の方がマズイ事になってしまうんじゃないのか・・・?
俺の不安を表情から読んだのか、百合香はそれ消すようにふわりと微笑む。
「心配してくれてるのね、ありがとう孝ちゃん。大丈夫よ、無理はしないから。それに借りた道具もあるしね。この道具ってね、上手く使えば調べ物にはかなり役立ちそうなの」
百合香はそう言って、両手に付けた青いブレスレットを俺に見せた。
あれが文十郎さんの作った道具か・・・。
どんな能力を持った物なのか、まだ聞いてなかったな。
「それに、お土産のプリンかショートケーキを買っていかないと空那ちゃんに怒られるわよ?」
いけねぇ、その事を忘れてた。
「だから、連絡用の道具を私に貸して。終ったらお土産を買って、あの祠から連絡するから迎えに来てちょうだい」
「・・・分かった。でも、絶対に無茶はするなよ?」
俺は百合香に連絡道具を渡しながら言った。
「心配性ね。・・・それじゃあ、お守り代りに・・・」
百合香は不意に俺の顔を両手で掴むと、一気に自分に引き寄せる。
二人の唇が重なった。
「んむっ?!」
「「あーーーっ!」」
さつきと有希が悲鳴を上げた。
百合香はそんな事はお構いなしに、俺の口の中に舌を割り込ませて、舌同士を絡める。
「ん・・・ちゅ・・・くちゅ・・・ぷ、ふぅ。んふ、じゃあ後でね」
そう言うと、百合香は少し赤くなった顔に実に爽やかな笑みを浮かべ、鼻歌交じりに部屋を出て行った。
すぐに外からバイクのエンジン音が聞こえ、それが遠ざかっていく。
むぅ、ディープキスされた・・・。
百合香の奴、いつの間にあんなテクを・・・。ちょっとナニが反応しちゃったじゃないか。
俺は部屋の鍵を掛けつつ、通信教育の賜物かなーと、惚けた事を考え・・・。
はっ!! 後ろから殺気が!?
「孝一・・・」
「孝一さん・・・」
俺は錆び付いたオモチャのようにギクシャクした動きで、振り返った。
二人の背後にブラックホールのような暗黒が!?
「さぁぁ、逝きましょうか? その地下錬金研究室とやらに」
さつきさん、発音が何か変です。
つか、字がちょっと違いませんか?
「そぉだ、孝一さんの着替えも持っていった方が良いですよね? 色々と汚れるかも知れませんし・・・赤い液体とかで、フフ、フフフフフフフ・・・」
赤い液体って何!? もしかして俺の身体に流れる真っ赤な液体ですか、有希さん!?
着替えは確かに必要だから、持っていくが・・・。
荷物をまとめ終ってもブラックホールが消えない。
とにかく状況を変えよう! 俺は震える手で転移道具を使った。
途端にその中から白銀の人造細胞が飛び出して、空中を縦横無尽に駆け巡る。
もの凄い速さで飛び回るそいつは俺たちの周りを包み込むと、一瞬光った。
僅かな圧迫感の後また光ると、そこはもう地下錬金研究室だ。
「あ、お帰り、孝一クン!」
偶然目の前にいた美幸(仮)さんが、俺を見て嬉しそうに微笑んだ。
そして、抱き締めた。
「むぶっ!?」
「大丈夫だった? 何も無かった?」
「は、はい、大丈夫でしたから、取り敢えず離れて・・・」
・・・あのう、美幸(仮)さん?
何で俺の事をジーッと見つめてるんでしょうか。
「可愛い・・・」
「へ?」
ニヘラーッと、俺を見て蕩けそうな顔をする美幸(仮)さん。
「あぁん、もう可愛いったりゃありゃしない! 食べちゃいたいわ・・・ジュル」
「お願いだから落ち着いてつかぁさい!!」
こんな美人に可愛いとか言われるのは嬉しいけども!
スカーレットに乗っ取られていた時を彷彿とさせる、妖艶な笑みを浮かべて怖い事を言わないでくれ!
「あなたが私を食べても良いのよ? 胸の大きさでは玲子『さん』に負けるけど、形の良さには自信あるんだから。見てみる?」
「お願いですから自重してつかぁさい!」
美幸(仮)さんはグラビアアイドル顔負けのプロポーションの持ち主だから、その辺の否定はしない!
ですが、時と場所を考えて下さい!
だって、彼女の後ろには・・・!
「お兄ちゃん、鼻の下伸びてる・・・」
「これはお仕置きだね」
「そうねぇ、足腰経たなくなるまでみんなで搾り取っちゃいましょうか」
あああ、玲子先生たち先客チームが、不穏なご相談をなさっておられる。
唯一無表情にこっちを見つめているのは、雪音(仮)さんだけだ。
俺は彼女を見て、アイコンタクトで助けを求めた。
お、動いた! 通じた?!
「お客人が来たようですね、お茶を入れて参ります」
スルーですか!?
何か、ちょっとだけ不機嫌そうに見えたのは気のせい?
俺は美幸(仮)さんのたわわな胸に埋まった顔を動かして、恐る恐る後ろを見る。
さつきと有希の反応が怖かったからだ。
また人外モードに入られたら、もう俺には為す術がない。
・・・ってあれ? 二人ともガックリと頭を垂れて四つん這いになってる。
所謂、orzを身体で表現しておられる。
「・・・また、ライバルが増えた・・・」
「競争率高過ぎです、孝一さん・・・」
乾いた笑いを浮かべるしかない、俺であった。
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