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ハーレム・ドラッグ―7
 三階の廊下に出ると、また声をかけられた。

「お~? おはよー後藤、百合香。珍しい組み合わせだね」



 すらっとした長身の女だった。
 クラスメイトの桐山さつき(きりやま さつき)だ。
 ・・・今日はよく女に会う日だな。薬の効果か? まさかね。

「偶然だ偶然! 変な勘ぐりすんな!」
「・・・そうよ、いい迷惑だわ」

 後ろの篠宮も抗議の声を上げる。
 こういう時だけは気が合うな。

「あっはっは! 分かってるって、あんたたちは犬猿の仲だからねー」

 カラカラと笑う桐山に苦笑を返す。
 こいつは剣道部に所属していて、副主将を勤めている。
 空那と違って剣道一筋にやってきてるが、それもその筈、彼女の家は剣道の道場だ。

 彼女がござを巻いて丸めた物を、真剣でぶった切るのを見せてもらった事がある。
 切った瞬間の目の鋭さに、背筋がぞっとしたね。総毛立つってのは正にあのことだ。
 以来、おれはこいつを怒らせるような事だけはすまいと心に誓っている。

「桐山は朝練か?」
「まぁね。ねえ後藤~、こんど稽古の相手してくれない?」
「・・・いきなり来たな」
「だぁって、私の相手が務まるのは主将かあんたくらいだもん」

 彼女が何でこんな事を言うのかってえと、一度だけ彼女の実家の道場で稽古相手を勤めた事があるのだが・・・。
 散々な目にあった。

 真剣を軽々振り回すような、歳に見合わぬ達人だぜ? 逃げ回るだけで精一杯でよ。
 やっと生じたすきに胴を一本取ったのが、唯一の戦果だった。
 まぐれもまぐれ、大まぐれだ。

 ところがなにを勘違いしたのか、彼女の親父さんは俺を妙に気に入ってしまい、笑いながら『どうだい、うちの婿養子に来ないか?』などと言っていた。
 笑って誤魔化したけど、正直冷や汗もんだった。
 ・・・顔は笑ってても、目が超マジだったから・・・。

 そんな事があって以来、彼女は俺をちょくちょく稽古相手に誘うのだ。
 はっきり言って買い被りにもほどがある。 
 叩きのめされるのが分かりきってるから、断り続けてる訳だ。

「だが断る」
「うわ、ひっど! そんなこと言わずにさ~練習試合が近いんだよ~お礼するからさ~」

 む、お礼?
 ほんの少し心が動いたぞ。

「お礼って・・・どんな?」

 ちょっと強張った声で聞き返した。

「お、脈あり? そ~だね~、一日私とデートってのはどう?」
「デートぉ!?」

 篠宮が素っ頓狂な声を上げた。
 ・・・お前、まだいたのか。

「だだだ駄目よさつき! そそそんな事したら、なにをされるか分からないわよ!」

 ・・・おい、俺は変質者か。

「なに慌ててんのさ、百合香。私と後藤がデートするのが嫌なの?」
「そ、そーいうんじゃなくて! あなたが心配だから言ってるの!」

 桐山をどうこう出来る人間がこの学校にいたら、見てみたいもんだ。
 素手でもかなり強いんだぞ、こいつは。

「百合香~、いい加減に素直になりなよ」
「なによ、急に・・・今はあなたの、」
「百合香」

 桐山がちょっとマジな顔で篠宮を見つめた。篠宮は口をつぐむ。

「あんただって、私と同じでしょ? 全然隠せてないよ? ・・・少なくとも、私には」

 篠宮は口をパクパクしているが声が出ていない。
 はて、なんの話だ?

「・・・まぁ、あんたが本気に、素直になったら・・・手強い相手になるだろうね。多分、最強のライバルだ」

 最強? ライバル?
 篠宮が? こいつは武道なんぞ学んでないはずだが。

「・・・私だって・・・そうしたいよ・・・でも・・・」

 篠宮がか細い声で答えた。
 ・・・え、泣いてる・・・!?

「私は・・・あなたほど強くないんだから・・・!」
「ううん、あんたは強いよ。同じ気持ちを持ってる私には分かる。・・・でもね、いつまでもこのままじゃ、後悔するのはあんただよ」

 桐山は篠宮の両肩に手を乗せて、諭すように話しかける。
 ええと・・・一体なにがどうなってんだ?

「もう少しだけ・・・時間が欲しい」
「しょうがないね~。でもあんまり余裕は無いよ? 他にも居るみたいだし、私もそろそろ攻勢に出ようと思ってるからね」

 篠宮の肩が微かに震えた・・・ように見えた。
 桐山が手を離すと、篠宮は小走りに教室に向かっていった。

「あたしも馬鹿だね、塩を送るような事しちゃってさ」

 桐山は腰に手を当てて、自嘲するように呟いた。

「あ~、何が何だかさっぱり分からんのだが?」
「女同士の秘密だよ。それより稽古相手の件、考えておいてよね。ちゃんとお礼もするからさ」

 桐山は階段を下りていった。朝練に行くんだろう。
 小首を傾げつつ教室に入ると、篠宮は何故か入ってすぐの位置で立ち止まっていた。

「おい、何をこんなとこで立ってんだよ」

 無言のままの篠宮の脇を通って中に入ると、教室の窓際に一人の女の子がいた。
 俺と同じか、少し年下だろうか。
 この高校の制服を着ていない、私服を着てる・・・生徒じゃない?
 白いシャツの上に、紺色のジャケットを着て黒いデニムと黒いブーツをはいている。

 何よりも目を引いたのは、陽光を受けて煌めいている金髪と、珊瑚礁の広がる海のように鮮やかな青い瞳だった。

「あなたがゴトウ・コーイチ?」

 いきなりピントがズレ気味の発音で名前を呼ばれた。
 俺を知ってる!? ちょっと待て、俺は外国人の知り合いなんぞ居ないぞ!?

「え・・・そ、そうだけど。・・・君、誰?」

 困惑する俺に、金髪娘は目を細め、その唇に笑いの形に歪めた。
 ・・・不敵な笑みだ。
 友好的な雰囲気・・・とは言い難いな。
 何者だ?

「返してもらいに来たわ。我が一族に伝わる秘薬と、その製法を記した秘本をね!」

 秘薬!? まさか、運命改変薬のことか!?
 驚いて硬直状態の俺を見て軽く笑うと、懐から何やらズルズルと取り出した・・・長くて、光っていて、鋭くて・・・。
 け・・・け、けけ剣じゃねーか!?

「あなた個人に恨みはないけど・・・」

 軽く振った剣をビシィッ! と硬直する俺に向け、更に不敵な笑みを広げる金髪娘。

「渡さないというのならば・・・死んでもらうわ」

 日常会話でもしてるようにあっさりと、剣呑な言葉を言いやがった。

テーマ:創作官能小説連載
ジャンル:アダルト
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